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「アシㇼパ、十中八九あいつが辺見和雄だ。杉元が後ろから刺されないよう弓は構えておいてくれ」
「分かった」
鯨が海岸に上がったため白石が戻ってきていたが、スカラは彼の答えを聞くまでもなく男が辺見和雄だと決め打ちした。二人は崖上から走ってくる杉元と男を眺め、そして遂に男が玉切り包丁を振り上げる。
アシㇼパが放った矢が辺見に突き刺さる。消して殺さないよう毒窩に付けられた毒を削り取ったものではあるが、動きを止めるには十分すぎることだろう。
そこから杉元と辺見の、ワルツのように煌めく殺し合いが始まった。
「海岸に下りるぞアシㇼパ！」
そうして白石の元へと着くと彼が急げと叫ぶ。第七師団が追い付いてきていたのだ。その先頭には鶴見中尉が居り、バチリ、と目が合った。コートは既に着直していたため、彼に杉元達と絡んでいることがしっかり伝わってしまった。見舞いにはもう行けんな、とスカラが考えたその時、シャチが海岸へと身を乗り出して辺見和雄を海へと引きずり込んだ。
「えーッ！？」
「なんだこりゃ！！」
「レプンカムイだ！！」
「三人とも舟に乗れ！入れ墨がシャチに食われちまう！」
「えっやだ」
「つべこべ言うなスカラ！！」
先程まで抱きかかえる側だったスカラだが、抵抗しないよう杉元に担がれて舟に乗せられる。アシㇼパを足の間の座らせたことで、顔を真っ青にしながらも大人しく揺られていた。
彼女が気付いた時には杉元が服を脱いでいて、辺見和雄の死骸も回収しており、いつの間にかシャチに引っ張られて第七師団を撒いていた。
「止まれ、あの速さでは追いつけん。杉元のやつ……アイヌともつるんでいたか」
そしてあの金髪の女とも。
あの時言っていた野暮用とは杉元を兵舎から取り返すことだったのだろうと鶴見は思った。尾形と共に行動した後、運良く彼らに拾われそのまま共にいるに違いない。
鶴見は彼女の聡明さと有能さを知っていた。尾形が気にかけるとはいかほどの女なのか、とは思っていたが、実際話すことで彼女の明晰が分かった。そして兵士としての才能も。
欲しかったのだ。ただ単純に。
優秀な兵士はいくら居たって構わない。杉元や土方達を出し抜くには、自身と同じかそれ以上の頭脳を持つ人間がいるくらいで丁度いい。スパイとして送り込むことも出来る。とにかくスカラという女は有用性が高かったのだ。
さて、どうやってこちらに引き込もうか。と鶴見は考えながら舟を降りた。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
