【金カム】リベラリストは黄金螺旋の夢を見るか？弍 (ページ9)

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「オソマ行って来る」
「アシㇼパさんお手洗いって言いな？」

アシㇼパが厠へ行ったのを確認して、辺見は徐ろに話しかける。主に杉元へ。

辺見は杉元に対して情愛にも等しい感情を抱いていた。この人なら自分を殺してくれるという。

しかしスカラにはそういった感情は無かった。理由としては「この人、殺しに関して何も感じてないな」という確信があったからだ。
事実、殺した奴の顔すらも忘れていない杉元に対し、スカラは殺人という行為はただの作業にすぎない。戦場でそんな暇がなかったからとか彼女の決断力と行動力がえげつないからとかそういう理由ではなく、単純に、人の生を終わらせることへのブレーキがないのだ。別に快楽を見出している訳ではない。人殺しとは正しく、“疲れる作業”である。殺す計画も動作も行為もそこから生まれる怨恨も評価も後処理も日常へ戻る労力も、全て楽なものではない。疲れるに決まっている。体力と気力が持ってかれるに決まっている。だからなるべく取りたくない手段であるだけで、彼女には生来人殺しへのブレーキが搭載されていないのだ。そういった観点から見れば辺見にも通じるところがあるにはある。出力されるのは全くの別物だが。

それに、スカラには生きる意思が無いと…煌めきが無いと感じたのだ。

だから辺見は杉元に殺されたかった。死の淵で輝く人、自身を迎えに来た王子、天空にて白く燃ゆる恒星…形容する言葉はいくらでも。つまり、彼の記憶の中で辺見は永遠に生き続けていたかったのだ。ずっと覚えていてほしかった。絶望の最中でさえも必死に抗うことで放たれる自分の煌めきを。

「何だ！？これは…」
「あ……しまった」
「どうした？」

便所には先程絞殺した男の死体を埋め込んでいた。二人の懐疑的な視線が突き刺さり、何とかして誤魔化さなければ、と辺見は思案して、杉元の手を掴み強引に立ち上がらせる。

「あの、お二人に見せたいものがあるのですが……」

けれどスカラはアシㇼパを待つと言ってその場を動かないことに決めた。

それが辺見とっては最高の好機であったのだ。