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「鯨ってどんくらいで弱るの？」
「一日か二日。運が良ければ自分で岸に突っ込むかもな」
「あー…じゃあ宿探さないとなぁ」
「番屋に泊まらせてもらうのはどうや。白石が帰ってくるまで宿代だけでも働きゃええんとちゃうか？」
「確かにな。あの人に訊いてくるよ」
杉元が足早に番屋へ走っていく。絶賛絞殺中の辺見に窓越しに話しかけるが、そのことに誰も気付いていなかった。まさか一枚壁を隔てた先で殺しをしているとは思うまい。
一方、スカラはあの男明らかにヤバそうだったなーなどと考えていた。まず人殺しをしたことがある人間は大抵顔付きで分かるし、スカラもそちら側の人間であるがゆえに判別がついてしまう。杉元も確かに人殺しではあるが、彼の場合割と純真というか…切り替えの速度がおかしいだけで人を無闇に疑うことへの罪悪感が存在するので、人を見ることにおいての才能がとても無いのだ。スカラは人の上に立つ人間であるのでむしろそういうのが仕事なんだな。
スカラは確かにこの漁師を疑っていた。ただこの男が辺見和雄という証拠はなく、唯一見分けられる白石が離れている以上決めつけるのも性急である。なにせニシン漁へ日銭を稼ごうとやってくる奴など大体ろくな人間ではない。ホラ、刺青囚人ではなくともヤのつく職業の方だったりとかもね、いらっしゃるかもしれないからさ。
しばらくして彼にニシン場のことや商品のことを教えてもらったが、アシㇼパが白石を追った方がいいと言うと杉元もそれに賛成する。スカラだけは眉根を寄せ抵抗しようとしていたが、アシㇼパに両手首をガシリと掴まれ肩を杉元に押さえつけられる。いい加減腹括れの意だ。
しかし男がお礼として食事だけでもしていけと言い、三人は白米につられて番屋へと誘い込まれたのである。そうして出されたニシン漬けと米にヒンナして食べていた。久しく白米なんて食べていなかったスカラはいつも以上に美味しそうな顔で食べていた。こんな身形だがパンより米派なのだ。それはそれとして京都人ゆえにパンも好きだが。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
