【金カム】リベラリストは黄金螺旋の夢を見るか？弍 (ページ6)

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三人は森に入って食料を探していた。フキノトウが芽生え冬眠していた変温動物達が顔を出しており、至る所から春が来たのだと叫ぶ声が聞こえた気がする。

小川を越えひらけた場所に出ると、手足を縛られ背中を複数の刃物で滅多刺しにされた死体が雪に埋もれていた。
スカラは躊躇せず死体へ近づき脈を測ったり刃物を抜いたりする。飛び出してきた血液があたりのまっさらな雪を染め溶かしていく。
この男が生きていると考えたわけではなく、いつ殺されたのか推測したかったからだ。この場所はコタンとそう遠く離れておらず、近くに殺人鬼がいるとなると捜索せねばならない。異常者から村人達を守るとい意味でもあり、刺青囚人を見つける可能性を肯定する意味でもある。

身体は完全に弛緩しているが腐敗はあまり進んでいない。春とはいえまだ北海道は寒いので状態が良く残っていたのだ。このまま暫く放置すれば屍蝋となるのではないだろうか。

スカラは次に遺体の服を脱がせ……そして男の背中で“目”を見た。気取った比喩じゃなくそのままの意味だ。男の背中には目という漢字が刻まれていた。

「目……？どういう意味だ？」
「分からん。が、随分と趣味の悪い輩なのは間違いないな」

スカラは手慣れたように十字をきりスクッと立ち上がった。冥福を祈った…というよりはただのくせ。戦場で仲間が死んだ際も同じように無感情で十字を描いていたので、スカラにとっては礼儀礼節に近しくそこに信仰も無い。そもそもどこかの宗教に属しているわけでもなし、むしろ日本人に対してなのだから手を合わせてやるべきだったかと思案する程である。

コタンへ帰ると左頬を腫らした白石が目を眇め、待ってましたと言わんばかりの笑顔で出迎えた。
家へ入るなりヤン衆が最近あちこちで殺されていると話し始め、それどころか犯人まで掴んでいると言う。
犯人の名は辺見というらしい。

「叔父たちがその囚人に狙われないか心配だ。ニシンを追って海岸に来た鯨を捕まえに行っているから」
「クジラ？」

確か松前では鯨を恵比寿神と同一とし神聖視していたとか何とかと聞くが、小樽では捕鯨は問題無いのだなぁとスカラは考えていた。鯨美味しいよな、個人的にはジャーキーが好きだ。とも。

「よしっ海へ行こう！！クジラを食べに！！」
「ええやん行こ行こ」
「え、アシㇼパさん？スカラさん？」

そう盛り上がっている中、白石が一瞬ほの暗い顔をしたのをスカラは見逃さなかった。