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「そういえば…杉元とスカラは恋人なのか」
「え？」
「ア゛ッッッッッッッ」
夕飯を食べている際谷垣がそう発した。
三人の困惑した声とスカラの焦る声。吐き出さんと変に飲み込んだせいかスカラは汁物を詰まらせて噎せていた。
「ちがッ…違う、あれはあの場を切り抜けるための嘘で……そもそも外国人ですらなかったんやから察してくれんか谷垣ィ……」
箸を握った手の甲で口を覆いながらスカラは説明する。
しまった。杉元もアシㇼパもどうやって第七師団から逃れたのかと聞いてこなかったものだから忘れていた。やっぱりあそこで殺しておくべきだったかな……｡
スカラはふーっと細く長く息を吐き顔を半分手で押さえ、まだ具合の悪そうな谷垣を睨みつけた。仕方がなかったとはいえ割と黒歴史に近いのだ。泣き落としなんて柄じゃない。忘れてくれ、忘れろよ。なあ。
「あー、だからあの時名前で呼んだんだ」
杉元が納得したように朗らかな声を上げる。
実はあの時自分を名前を呼んだのと抱きついてきたことに疑問を持っていたのだ。演技だと言っていたので何かしら芝居を打ったことは分かっていたが、恋人として通していたとは…と杉元は少しむず痒くなる。
なんというか、強い女だと。杉元は思うのである。
あの威風堂々たる佇まい。硝煙と戦火の激情を孕むか細い四肢。暗闇でも鮮やかに輝く刃めいた瞳。確かな実力と躊躇を切り捨てスキッと伸びるその背中。強いひとだ、何処も彼処も静脈の一本に至るまで自信に満ちている。
だからそんな彼女の弱った姿を見て、脳が痺れるような気持ちになったのだ。首の辺りが熱くて目の奥がチカチカする。たとえ演技であったとしても確かな高揚を抱いていた。
「結構嬉しかったんだ」
「なにが」
「名前呼び」
一通り騒ぎ終わって寝に入りつつあったスカラにそう言う。
多分誰か一人を特別扱いしない…というか、根が案外真面目で公平な人だから、きっともう名前で呼んでくれることはないだろうなぁと杉元は思ったので、嬉しいという感情を素直に伝えたのだ。
スカラは眠たげな表情はそのまま納得と許容に柔く表情筋を蕩けさせ、緩慢な動作で手を杉元の頭に乗せる。
じわ、と額から脊椎を伝って全身へと伝播する安堵と幸福感。
「そ…気に入ってくれてよかったよ、佐一」
「……エ、いま」
「おやすみ」
「待って待って！ねえ待っててばお願い！」
「うるさいぞ杉元！」
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
