【金カム】リベラリストは黄金螺旋の夢を見るか？弍 (ページ25)

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「ンなこたぁどうでもいいんだよ。お前嘘吐きやがったな？」

ラプラスの悪魔は確かにこう言った。「別世界ではあるが、スカラの知る歴史でもある」と。
しかしスカラの知識には鶴見篤四郎という男が旅順要塞に旗を立てたという情報はない。歴史書と共に育ってきた女が記憶違いなどするはずがあろうか？否。

「いいえ？誤認させるような言葉選びをしたのは認めますが…嘘は言っていません」

悪魔は言葉を続ける。

「既に結末が決まっている物語なんです、これは。たとえ誰を救おうが蹴落とそうが、結局行き着く先は同じ」

つまり、ラプラスの悪魔よりもっと上の存在……それこそ神や世界の圧力がかくあるべしと定めたから、物語の終わりは決まっていると言いたいわけだ。

「過程は重要ではありません。結果が全て……分かるでしょう？」

その言葉を聞いて、スカラはもう一度悪魔に殴りかかる。けれどやはり当たりはしなかった。
悪魔は呆れたように肩を竦め、やがて姿を闇へと溶かす。声だけがこのもったりとした暗がりに響いた。

「ところで…このまま寝ていたら死にますが」
「は？死？」
「有り体に言えばあと数分後にホテルが爆発します」
「はァ！？」

スカラは焦り、思わず一歩後退って───そのまま落ちる。
突然の浮遊感に驚いたのも束の間。バチリと空いた瞳には、薄汚れた天井が映っていた。

「スカラさん！」
「佐一か」
「火事になったんだ！今すぐ荷物をまとめて外に！」

悪魔の言う通りだとハッとしてスカラはドアノブを数度回す。しかし扉は開かない。
なるほど、外から鍵を閉められる扉か。と、すぐに理解し声を上げる。

「閉じ込められた。何とかして外に出るから後で落ち合おう」

どうやらウィンチェスターハウスではなく、殺人の城…ワールズ・フェア・ホテルであったらしい。

スカラは椅子で窓を割り、荷物を抱えながら絎へ立つ。強い風が吹きスカラの細い金髪を乱した。

そうしてスカラは躊躇なく飛び降りる。そしてよく訓練された動きで受け身をとって、素早くホテルから遠ざかっていった。そりゃ何もしてない平和ボケした一般人なら骨折ったり死んだりかもしれないが、なんてったって兵士。戦場から離れて数年経つとはいえ、たかだか二階程度の高さじゃどうってことないのだ。

スカラが走り出して五秒くらい経った後、ホテルが爆散した。キィンというクラクションにも似た耳鳴りがして、熱風が背中を撫でていった。