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気分が良くなったのか男はビール飲み比べ勝負だと言って飲み始めた。結果から言うとスカラの一人勝ちであった。身体はビールで出来ている…ビール大国の血筋をあまり舐めるなよ。
だが飲み比べている最中。部屋に帰った後も、スカラだけが心に留め置いたこと。
男は札幌ビール工場を作った人物の話をしてくれた。曰く新政府軍の侍で、「戦争に負けたのは悔しいが、奴の作るビールは美味いってよ」と彼は言った。その後、生きていたらと付け足したが、「ア。こいつ今、明らかに誤魔化しやがったな」とスカラは気付いた。
土方歳三が生きていると知っているのなら、刺青囚人か彼の協力者か。どちらにせよ敵だ。しかし、彼は自分達が刺青を狙っている輩とは知らないし…何より当たるとはいえただの勘だ。白石が居れば確証が───と、そこまで脳を動かしてはたと気付く。
白石は何処に行った？
嫌な予感がした。いくらどこぞほっつき回ってるような男だとしても、夜は流石に部屋へ帰ってくるはずだ。飯を食う金も持ってないだろう。スカラは部屋を出てキロランケ達のところへいこうとする。しかしよく通る可愛らしい声が彼女を制止した。
「お客様、どちらへ向かわれるのですか？」
「…女将さんか」
スカラの真後ろ。まだ扉からろくに歩いちゃいないってのに、女将は幽霊のように背後に立っていた。思わずすいっと視線が彼女の足元へ移動する。靴は見えないが、初めて会った時にヒールの硬い音がしていたのを思い出す。そしてけして動きやすくなさそうな長い裾。布が擦れる音すらしないのはどういうことか。
スカラは兵士だ。戦場で生き延びた彼女は音にひどく敏感で、人の気配に反応しやすい。酒を飲んでいようと焦っていようと、それらは身体に刻み込まれた兵士の意識だった。
右手をコートの懐に入れ、ギュッと包丁を握り締める。いつでも取り出せるように、いつでも彼女の首を掻っ捌けるように。
「知り合いの部屋に行こうと思いまして。どうかされましたか」
「いえ、急いで出ていかれるものですから…。お客様、申し訳ございませんが消灯時間がすぎておりますので、どうかお部屋にお戻りください」
扉が、開いている。確かに閉めたはずだ。後ろ手で見ていなくとも、この手で扉を動かした感触は覚えている。だから開きっぱなしで部屋の内装が見えるだなんてそんなこと無いはずだ。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
