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「シンナキサㇻ」
「シンナキサㇻ」
「なに？」
アイヌの二人が男を見てそう言う。
「柔道耳というやつだな」
餃子耳や…医学的には耳介血腫とも呼ばれている。外部からの衝撃によって耳たぶの皮膚と軟骨の間で出血し、その血が溜まって固まったもの。要は耳の内出血である。一度なれば基本自然的には治らないが、打撲なんかの際に腫れや内出血がでににく、また耳の軟骨が異常に柔らかい人は耳が沸きにくい…らしい。受け売りだ。スカラは柔道ではなく合気道を習っていた身なので。
「アンタ相当やってたね？俺は体質なのかそんな耳にはならなかったよ」
「ほう…心得があるのかね？」
杉元が男と握手したとき、スカラはアッと思って反射的にアシㇼパを自身の背に隠す。雰囲気が変わったことに気付いたからだ。その一瞬で二人は襟首と袖を掴み合うが、大男の方がふっと手を離す。
「このままでは殺し合いになる、こんな強い男は初めてだぜ。気に入った…」
そうして奢ってやると連れ出されたのである。
「美しい金髪だなお嬢さん。透けるような白い肌も良い」
「どうも」
「どうだい今夜」
再三言うが、スカラは顔が良い。数百年の歴史を持つ絵画のように、人々に謳われ磨かれた姿。繊細にして絢爛、華奢にして豪壮。妖美にも強く羽ばたく蝶の如き女なのだ。自由に飛ぶ姿を愛でるか、捕まえて標本にして愛でるかは個人の自由である。
なお性格は硝煙と煮えた油を更に煮つめ、丁寧に薄い硝子瓶に詰めたみてえな過激なので、顔面の儚さに騙されてはいけない。
「ふ、女好きか。その様子じゃ女将も口説いていそうだな。悪いが私は一途な男が好きでね」
スカラは肩に伸ばされかけた手を軽く払い杉元の隣に行く。無理に迫ってくれば恐らく杉元がぶん殴ってくれると考えたからだ。
しかし割と弁えた紳士であったのか、男はそれ以上話しかけてこなかった。あるいは何か勘違いしたのかもしらんが…。
なんにせよ一先ず安心してスカラは店へと入った。
水風亭という西洋料理店。特にエゾシカ肉を使ったカレーが有名らしく、その他にもアイスやコーヒー、西洋菓子などの料理がある。
アシㇼパは出されたカレーを凄い顔で眺めていたが、杉元に「食べてもいいオソマだから」と言われる一口掬って食べた。すると「ヒンナすぎるオソマ……」と言い、スプーンを持ったまま机に突っ伏す。ちなみにヒンナは食事に感謝する言葉である。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
