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グイっと転がって身体を仰向けに直し、細い息を吐き出した。人間らしく重く湿った息。そこで初めてスカラは自分が思う以上に疲弊していたのだと知る。傍から見れば当たり前だったが。
スカラの眠りはあの日から今まで以上に浅く短いものになっている。ゆえに止まり続けることなく動き回る生活で積もった疲労がとれるはずもなかった。どう考えたって無茶な生活に耐えられているわけは彼女が兵士で、元々自分の命の消費スピードを加速させることに抵抗がない人間だから。スカラは特殊な訓練を受けているので普通の人は真似しちゃいけない。長生きしたいならね。短く太く、世界に名を残す何者かになりたいのなら話は別だ。
特別ってそういうこと。命の蝋燭を火炎放射器にでも改造した挙句、時間も感情も、与えられた全てをガソリンにして燃え盛らせなければならない。世界という冷たくて広大な極彩色のキャンパスに、自身の名を焼き付けるにはそれくらいのことは当然だ。
そして既に彼女は英雄なわけで。その胸に灯った炎は未だ青いまま辺りを燃やし尽くしている。
だから無駄には出来ねぇんだな。
彼女の一挙一動、ペンの先、インクの染みでさえも意味と価値が宿る。授かった魂を無為に浪費するのは好ましくない。
スカラにとってこの世界は不意な寄り道だ。ここは彼女が居るべき世界ではないので。自ら望んで舞台に立ったのは確かだが、長居するつもりはない。彼女が荘厳なる目標とささやかな夢を叶える場所はここではなかったのだ。
せめて、自分が元いた世界がどういう状況か知れたらいいんだけどな。と彼女は考えて、あぁじゃあ寝れば会えるかと目を閉じたその時、扉を叩く音がした。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
