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「アンタ…日本人じゃないだろうに、なぜアシㇼパ達と居る？」
どっぷりと夜が更けた頃、キロランケにそう問われる。
白石が刺青囚人であることを明かした後、四人は彼のコタンへと赴いて家に泊めさせてもらったのだ。
彼はアイヌの金塊を奪ったことに対し、のっぺらぼうと同郷の人間として責任を感じていると、最後まで見届けたいと言う。
「…確かに外国人の血の方が多いが戸籍上は日本人でね。和名だってちゃんとある」
「混血なのか」
「ドイツとアメリカと日本。そういう貴殿は……ロシアというよりタタールっぽいな」
「！よく分かったな。普通は見分けがつかないのに」
「昔交流があったんだ。良くしてもらったよ」
あの戦場にいたとき、数多くのタタール人と話す機会があった。訪れた街にいた民間人としても、共に戦った戦友としても。彼はスカラ達を同胞として受け入れてくれた恩がある。
「それにしても…三つの国の血が入っているのか……」
「ここら辺ではそう珍しいものでもなかろう？貴殿のご子息もそうなのだし」
スカラの口調や立ち振る舞いから、彼女の生まれが高貴であることはキロランケにとって透けて見えていた。艶やかな黒髪が目の前にチラつく。少し話した程度だが彼女とよく似ている。その聡明さやスキッと爪先まで伸びた自信。貴族の出でありながら荒々しくも大胆な話し方まで。
だからこそスカラの目的が分からなかった。彼女は強い人間なのだろう、それはわかる。アシㇼパの父親とよく似た瞳をしているから。
きっと目的の為なら犠牲も厭わない。達成のために最短距離で動けてしまうような…言い方を変えれば、酷く冷徹な女なのだろうとキロランケを思う。彼女の目は金塊ではなく、その先。ずっと遠い…もっと大きな何かを見詰めていると、直感的に分かってしまった。
ゆえにこそ彼女の目的を知っておきたかった。いや、彼と同じ眼をした人間を信頼したかったのだ。もし、自身の目標と彼女の考えが一致したのならば───と、そこまで考えて、やめた。スカラがひとつ小さな欠伸を零したからだ。
「あ、すまん。眠かったか」
「ここ数日ろくに寝れてなくてな」
「気が張っているのか。この村は安全だから安心して眠ればいい」
「……あぁ、そうだな。そうするよ、ありがとう」
彼女の目線を横や揺らめく自身の影に向けると、曖昧にそう言ってアシㇼパの横に並んで寝転がる。何度か瞬きをすると、緩慢な動作で息を吐きながら目を閉じたのだった。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
