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年老いた和人が自身の村に来て、ある女性を探していると言った。
「“小蝶辺明日子”」
「……！！どうしてその名前を……」
その名前はアシㇼパの父母しか知らない彼女の和名。
キロランケは網走で金塊の在り処を示した刺青囚人達がいること、そして彼らが監獄から脱走したことを知っていた。のっぺらぼうは外の仲間に彼らが接触できるヒントを与えていたのだ。
小樽にいる小蝶辺明日子、のっぺらぼうはアシㇼパに金塊を託そうとしていた。
つまり、
「のっぺらぼうはアシㇼパの父親だ」
アシㇼパの目が曇る。
アイヌの、父の仇としてのっぺらぼうを追ってきたのに、仇そのものが自身の父親だと信頼出来る知己にそう断言されたのだ。ショックを受けるのも無理は無いし、彼がやったであろうことを信じたくない気持ちもわかる。
スカラは彼女の肩を抱いて自身の方へと引き寄せた。
「なぜアンタはアシㇼパの和名を知っている？」
「俺はアシㇼパの父と一緒に日本へ来た」
やはり日本の男では無かったか、とスカラは眉をクッと寄せる。
のっぺらぼうの逃走経路を見て感じたことがあった。小樽に行ってどうするとは思っていたが…まさか金塊を国外へと持ち出そうとしていたとは。
何故だ。のっぺらぼうは…アシㇼパの父はなぜ金塊を国外に持っていく必要があった。何と戦争をする気だった？
スカラは思考を巡らせた。
白石を見る限り彼はアシㇼパの和名を知らなかったのだろう。ならばのっぺらぼうは土方歳三にだけ彼女の名を教えていたことになる。彼らの目的が一致したと考えるのが自然だ。
土方歳三は何を目的としてこの金塊争奪戦に参加している？
アイヌ民族運動、北海道独立論、蝦夷共和国。
この三つの言葉がスカラの脳内を駆け巡った。
「信じない、自分の目で確かめるまでは。私は、のっぺらぼうに会いに行く」
金塊を見つけ出すことでのっぺらぼうは不要になり、アシㇼパの父の仇を討つことができると考えていたずなのに、見つけ出されてしまえば彼女の父親は処刑されることになる。
もしのっぺらぼうが本当にアシㇼパの父親なのだとしたら、彼女には金塊の在処を教えるだろう。しかし網走刑務所は北地の果て。面会はできず忍び込むのは不可能だ。
どうやって本人に会うというキロランケの問いに三つの声が重なる。
「脱獄王」
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
