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現在杉元一派が持っている刺青人皮は白石含め五枚。鶴見陣営が持つ皮は恐らく津山一枚。土方歳三が囚人を集め仲間にしている可能性を加味すれば、土方を見つければ大量に刺青人皮を手に入れられるかもしれない。
「土方歳三か…どんな男なんだろう」
こないだ目の前にいたんだけど…と白石を考えた後に彼の人柄を語る。
「とても70を超えてるとは思えねぇ若々しさがあったな。人魚の肉でも食ったんじゃないかって囚人たちから言われていた」
「にんぎょ？」
「上半身が人間で下半身が魚のバケモノさ」
八百比丘尼伝説というものがある。人魚の肉を食べ不老不死になったが、大切な人々に先立たれ永遠にその最期を見なければならない運命を背負う。その後彼女は出家し全国各地を行脚したことで、彼女にまつわる伝説は今も様々な場所で残っている。
もっとも、スカラにとってはアンデルセンの『人魚姫』の方が馴染み深い。八百比丘尼伝説が死すべき時に死ねないつらさというのなら、人魚姫は生きるべき時に死すつらさだ。彼女は王子を刺してでも生き残れば、きっと幸せが待っていたかもしれないと…幼いスカラは考えたことがあった。
「ねえ見て杉元、福寿草の花が咲いてるヨ？」
「ヤダかわいい」
「乙女か」
生命が最も輝き始める時期、春が来ていた。
「チライ・アパッポ。私達は 「イトウの花」と 呼んでいる」
イトウは日本最大級の淡水魚で春になると現れる。つまり福寿草が咲くのはイトウが川を上ってくる合図ということらしい。
白石がイトウはマグロに似て美味いから食べたいと言って、何とかとれないかとアシㇼパに聞いていた。彼女はカジカをとった際の罠であるラウォマㇷ゚でもイトウが獲れると言った後、でもイワン・オンネチェㇷ゚・カムイは捕まえられないんだろうなあと言う。
曰く巨大で悪食、川に落ちた子供を飲み込んだという話もあるらしい。
また、泳ぐヒグマを丸呑みするほど巨大なイトウもおり、その大きさたるや25間(約45メートル)はあったという。イワン・オンネチェㇷ゚・カムイはイトウの主だとアシㇼパは語った。
ちなみにイトウの最大記録は十勝川で捕獲された約2.1メートルであり体長1メートルに育つまで10年はかかるので、この理論でいくのならばそのイトウは450年生きている。
マァ昔話や噂にはよくある誇張表現だろう、とスカラは鼻で笑った。
すると川辺の桟橋でイトウを釣る男を見つける。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
