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「そういやぁ…スカラちゃんが料理してるとこあんまり見たことないな」
辺見和雄と出会ったニシン場から約数十キロ離れた別の番屋にて、酒に浮かされた白石がそう言った。
「作れんわけじゃないが…あまりしないのは認めよう」
「女としてどうなんだ？それ」
「女以前に経営者なのでな。ろくに食事をとる時間も取れなかったんだよ」
「経営者？社長なのかスカラさんって」
「オッそうだぞ〜」
「え！スカラちゃんお金持ちってこと〜！？」
「そうだぞお金持ちだぞ〜今は一文無しだけどな」
実際ここに来る以前は金があった。個人の資産においてもそうだし会社経営の費用としてもそう。スカラの会社は彼女のコネと人脈を駆使した外資系の企業なうえ、国際的な警備(軍事)会社という珍しい事業だったこともあり、立ち上げてから割とすぐに軌道に乗った。スカラが有名人だったのもあるけどね。
よってまだまだ脆弱だった運営側のシンギュラリティはバチボコに起こることになり、幹部役員達上層部の死屍累々が築かれた訳だが。(遠い目)
スカラがこくりこくりと船を漕ぐアシㇼパを膝に寝かせてやろうと彼女の肩と頭に手を当てたかけたその時、ひとりの老爺が部屋に上がってきたため、スカラは金髪を目立たせないために被っていたコートを深く覆い直す。
彼はアシㇼパを抱き上げると彼女の目をじっくりと見た。
「綺麗な瞳の色だ。よく見ると青のなかに緑が散っておる…ロシア人の血が混じっておるのかな」
そこまで聞いた白石がヒィと短い悲鳴を上げる。なにかに気付いたようだった。
「この子の名前は？」
「……アシㇼパ」
「……和名は？戸籍上の名前があるはずだ」
「さあ…聞いたことも無いなあ」
彼は杉元の顔をジッと見つめるとウメドやクワジロウと言った人物に似ていると言い出した。彼の知り合いであろうか。
「そこのお嬢さんは…総司かな」
「ソウジ…総司？」
スカラはハッと顔を上げる。けれどその頃には彼は白石にアシㇼパを預け部屋を出ていっていた。白石から彼女を奪い、自身が被っていたコートを掛けてやる。
際して何を言われたか知らないが、酒を勢いよく呷る彼をまっすぐ見て───「こいつ、土方歳三と通じていやがるな」と冷静に見抜いた。
昔話をするのは老耄の悪いくせであろう。
幸い杉元やアシㇼパには気付かれていないが、スカラは白石に対して、彼と同じように強い警戒を払うことに決めたのだった。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
