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「白石料理上手いな」
「え、そ〜？普通じゃない？」
「家事できないとヒモできないもんな……」
「ひどい」
白石が提案した竜田揚げを食べながら、知り合いのクズ男も性格は終わっていたが料理は上手かったとスカラは思い出す。
「何も毎日作る訳じゃなくて、ちょっとした記念日だとか休日だとかにやってやると、女は喜んでまた稼ぎに出るんだよ。チョロいよなぁ」というカスのライフハックを教えて貰った記憶がある。
道化を演じるのが得意な男だった。人の同情とか愛情を食いものにして、善意を無碍にするタイプ───に見せかけて、ずっと繊細で、ストレートに向けられる好意には弱かった。どこまでも人間らしく、甘くて、優しい奴だった。誰もがクズだと言いながらも何だかんだ言って好いていたのだ。
この白石由竹という男も、きっとそうなのだろう。
「スカラちゃん料理上手いって言ってくれるわりにあんま食べてないじゃん」
「ん？あー…油物ちょっと苦手なんだよな。これでも食べてる方。もともと少食だし」
「スカラはもっと食べた方がいい。細すぎるぞ」
「俺もそう思う。殆ど身長変わんないのに軽くてびっくりするもん」
普段はスーツやコートを着ているのであまり目立たないが、スカラは普通の成人女性に比べてもずっと細身だった。
貧相という訳ではない。かつて戦場を駆け抜けたのだ。たとえ愛用武器がペンになろうとかつての栄光ではない筋肉がそこにある。ただ、無駄を削り機能に全振りした豹のような身体付きなのだけで。
また基本的にカフェインと糖分で徹夜続きの死にかけた身体をさらに追い込むというハードで気の狂った生活だったので、そもそもの胃が冬眠明け直後の熊のように縮んでいるのだ。固形物を食べる時間すらない社畜なので仕方なかった。
ゆえに少食かつ細身、けれど力はあるという肉食動物のような状態になったのだが、傍から見れば可哀想なくらい痩せてると思われてもあまり違和感の無い細さだ。
「いっぱい食べて肥えろ、スカラ」
「アシㇼパこそたくさん食え。成長期なんだから…大きくなれんぞ」
スカラは盛られた竜田揚げをアシㇼパの口に突っ込んだ。シャチもせめて美味しく頂かれた方が嬉しいだろうと考えてのことだ。アシㇼパは大きくなれないの一言にムッとしながらも、まむまむ口を動かして咀嚼した。
そうして、やっぱり父親と同じ懐かしい影を彼女に見たのだ。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
