【金カム】リベラリストは黄金螺旋の夢を見るか？弍 (ページ2)

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一発ぶん殴る気分ではないと言いながらキッチリブチ切れていたスカラが鮭のルイペを楽しんでいるとき、フチが徐ろに話し始めた。曰く鮭にまつわるウパㇱクマ…言い伝えだそう。
各国の多くの先住民と同じくアイヌも伝承や歴史は口伝である。ゆえにこれも語り継ぐべき物語であるのだろう。

ある時から鮭が川を登ってこなくなった。男たちが砂金を探して水を汚したせいだ。
同じことが日高、釧路、白老…あちこちで起こった。砂金は村の代表者が船を使い海を通って一箇所に集められた。それが何年か続いたので鮭は獲れなくなり生活は苦しくなった。アイヌは話し合い砂金を採るのをやめた。争いの元となる砂金はそのまま隠され話すことも禁じられた。
やがてみんな年老いて、金塊のありかを知るものはこの村の年寄りひとりだけになった。

以上がフチの語るウパㇱクマだ。
おそらくその砂金が例の埋蔵金…というわけだろう。一日に112g以上採れた時代だ、それが北海道各地から何年も集められたのならば決して75kg程度で収まるはずがない。

「桁が違う」

谷垣がそう声を上げる。鶴見中尉は情報将校で、情報収集や分析能力に長けているとも話す。

「鶴見中尉の推測では…囚人が聞かされていた量の千倍はある」

つまり二万貫。現代の直すのならば75トン、その価値は八千億円にも登る。

あぁ、それなら充分戦争を起こせるだろう。

この話を聞いてむしろ納得したという風に頷くスカラを白石は冷や汗を流しながら見た。

異人の女が軍の決算を知っているうえ、そこから金塊の量に違和感を持つなど有り得ない。こいつは鶴見中尉の差し金ではないか？と白石はそう考えていたのだ。

白石にはスカラが未来から来た人物であることを知らされていない。…いや、言いはしたがあまりにおどけながらであったし、そんなもの本当だと思うわけがない。
割とキッカリ本気で金塊探しに協力しているスカラとは裏腹に、白石は表に出すことなく彼女を警戒し始めていた。

鶴見中尉の仲間なら谷垣に殺されかけることもなかったのだが、そこら辺は彼女の聡明さを目の当たりにしたせいで抜けていたのだ。まぁ胡散臭いのがデフォルトのうえに、キチンと説明していなかったスカラが全面的に悪いので、無駄に気負うことになった白石は泣いていい。

お互い傷を負って通夜みてぇな反省会を開くのはもう少し後の話。