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「傷が残るかもしれない」
アシㇼパが深刻そうに言う。この男…谷垣源次郎に銃で殴られたため、スカラは後頭部から血を流していたのだ。おまけに脳震盪で気絶しクッソ胸糞悪い悪夢としか言いようのない何かを見た。マァそのおかげで目標が定まったので収穫が無いとは言わん。
嵐を起こす蝶になるなら、一度や二度死にかけるくらいで丁度いい。
「ンなの気にしぃひんからええって」
実際スカラの身体には至る所に傷がある。その殆どは戦争で負ったもので、銃弾が掠ったものとか塹壕に火を入れられた時の火傷とか接近戦で刺された傷とか…とにかく様々だ。五体満足でどこか吹き飛んでるわけじゃねぇから問題ない。今回も頭が割れて死にかけはしたが死んでないからかすり傷だ。
そうなんともなさそうに言ってのけるスカラを見ても、アシㇼパ達の方が傷付いた風な表情をしている。
なんだかなぁ、と居心地の悪い気分になった。アシㇼパが心配するのは分かる。けれど杉元までもが気にするのは合点がいかなかった。自分が兵士ってこと知ってる筈なんだけど…とスカラは頭を捻る。杉元はそういう生い立ち関係無く、仲間や信頼した者が傷付くのを嫌がる性格であることがすっかり抜け落ちていたのだ。
「スカラちゃんもそう言ってるんだしいいんじゃない？」
「うん、今や加害者の方が重傷やしなぁ」
スカラはちら、と浅い息をしながら寝ている谷垣を見た。スカラを木の幹に寄せたあと人質としてアシㇼパを連れ三人のもとへと行き、その後逃走している最中にアマッポに引っかかったらしい。毒矢が足に刺さり周りの肉ごと取り除いたと話を聞いた。
こうも死にかけだと一発ぶん殴る気分もなくなる。
場を収めるように白石とスカラはもう寝ようと言った。二人は不満気だったが眉を寄せたままでも大人しく横になってくれた。
コタンに着くとあの時のように子供達に白石が囲まれた。大人達で谷垣をアシㇼパのチセへと運び込み治療を施す。
スカラも主に子を持つ母親達から女性が傷を残してはいけないと心配された。え、私子供扱いされてるのか？とスカラは戸惑いながら治療に応じていた。
その後は鹿肉の鍋であるユㇰオハウとルイペなるものを食した。
アシㇼパが言外に味噌を強請った際杉元と白石は死んだ表情をしていたが、スカラは逆にニコニコしながら鍋をつついていた。穏やかすぎて怖い笑顔である。
理由？自分を殺しかけた相手の弱った姿を見て食う飯が美味かっただけだけど……(性悪)
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
