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「起きろスカラ！」
「ヴッ…グェ……」
無防備な腹に容赦の無い一撃。
ストゥの乱用は許されていないのではなかったか？そう考えつつ痛む腹を擦ってスカラは起き上がる。月光のような髪が所々跳ねていた。
「杉元が居なくなった。私達を置いて出ていったんだ。町は広いからレタㇻと協力してあいつを探す。分かったらさっさと起きろ」
どうやらスカラがすよすよ寝ている間に一通り探し回ったらしい。レタㇻを呼んでまで捜索するつもりだそうだ。
「……ぅん……で？」
カクっと力なく項垂れた首から、底冷えするほど冷徹な声が放たれる。氷点下の夜に凍った湖に引きずり込まれているような、そんな気分にアシㇼパはなった。アシㇼパは大人の本気の悪意を初めて受けたのである。
「おまえさ、頭良いから分かってるだろ。杉元が置いていった理由。で、その優しさを素直に受け取れない奴でもないはずだ」
それでも探しにいくのか？と、頭を擡げてけんもほろろと言った具合にアシㇼパの瞳を穿つ。キロッと動いた水平線の眼球に捕まったアシㇼパはア。と思う。ア、っと思って、固まった。頭皮が冷えるような心地がして、内臓がふいと放り出されたよう心許ない気分になるのだ。
そうやって黙りこくってしまったアシㇼパを見上げて、スカラは彼女の小さい手を握る。スカラは彼女の足元に転がるトラウマじみた恐怖に気付いていた。
「……分かってる…でも私は、杉元と金塊を探したい」
ずっと誰かに置いていかれる人生だった。遠のいていく背中を見るのは慣れてしまった。けれど追いかけてやると思ったのはそれが優しさでできたものだったから。つまり勝手に決めつけて勝手に慮って、有り体に言えば余計なお世話。
杉元の自由意志は尊重されるべきである。けれど、当然そこに介入したがるアシㇼパの意思だって尊ばれて然るべきなのだ。
スカラとしては、そこにキッチリ怒って正論だろうがそれでも！と言われたら、そりゃもうよくできましたと景気よく花丸を描いて協力してやるつもりだった。
そしてアシㇼパは見事百点満点の解答を叩きつけたのだ。
「どうやって探すんだ？」
「杉元のかたっぽ靴下ちゃんがある。かわうそを食べたあとに出ていったからやっぱり忘れ物をした」
そう言ってレタㇻに臭いを覚えさせる。やけに古びた靴下だ。あいつこんなの履いてたのか。
「レタㇻは目立つから夜を待とう」
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年2月25日 23時
