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ハ ナ ビ 5 ページ10

Aside
·

「なーにたそがれてんの」

がらら、と扉を開ける音。

『坂田先生』
____バン

振り返った瞬間、外で大きな音が鳴った。
私は空へと視線を戻す。

『うわあ…』

色とりどりの火の花が、破裂音とともに、咲いては散っていく。

「ここからだとよく見えるんだな」

すごく良い眺めだ。
坂田先生も回転椅子を持ってきて、私の隣に座る。

「ほい、おにぎりとサラダ、買ってきたぞ」

『ありがとうご…って、坂田先生、なんでビールあけてんですか!』

「いいじゃん別に」

坂田先生がぷしゅっ、といい音を立ててあけたのはビールの缶。教師が学校で何やってんだ。
バン、とまた空で音が鳴る。

「花火を肴に呑む酒とかさあ、最高じゃね?」

『開き直んないでください』

おにぎりは紅しゃけとツナマヨネーズ。意外とまともなセンスでほっとした。

色鮮やかなネオンカラーが空を駆ける。
綺麗だな、と単純に思う。
花火は勢いを増していく。光が濃くなり、建物が照らされていく。
しばらく、沈黙が満ちる。

「なーんかさ」

坂田先生はあっという間に一缶を飲み干し、新たなビール缶に手をかけていた。

「俺等って、都合のいい年だよね」

バン、バン、バン。音は号砲のよう。

「無論、大人だ。大人の振る舞いをしなきゃいけない」

煌々と照らされる夜空から目を離さぬまま、私は黙って話を聞く。

「でも、若いっちゃ若い。うちのクラスの生徒達の煌めきに一番近いところにいる。年齢的にも、物理的にも」

坂田先生は淡々と話し続ける。
私は二つ目のおにぎりのフィルムを剥がした。
花火はクライマックスだった。
熱と光が、ここまで伝わってくるようで。

「俺は、青春を眺めて、こうやって見るのも、青春のひとつなんじゃねぇかって思う」

遠すぎず近すぎない距離の花火。
騒がしい会場とは離れた学校。
___パラパラパラ、と火花が散る。

何となく言いたいことがわかった気がして、彼の顔を見る。
二回、彼の顔は花火の色に染まった。
そして、静まり返った。

もう、火の花が夜空を照らすことは無かった。


『…終わっちゃった』

「スルーしないで?俺滑ったみたいになってんだけど」

『違うんですか?さ、仕事に戻らないと』

冷たい部下だ、とぼやいて坂田先生が立ち上がった。私も腰を浮かす。
前を行く坂田先生に、いつもより少し、ほんの少し、胸がしめつけられる。


何かの予感を胸に抱いて。
もうひとつの青春を、私はこれから__


__ハ ナ ビ 終__

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みるくれーぷあいす(プロフ) - 氷華さん» ありがとうございます!嬉しい限りです! (2019年12月25日 16時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
氷華 - 神威君ーーーーーーーーー! この小説いいね♪ (2019年12月25日 12時) (レス) id: e5c89771f4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みるくれーぷあいす | 作成日時:2019年8月27日 1時

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