【鬼滅の刃】元彼と、もういちど【我妻善逸】

たかがひとくち、されど ページ41

Aside
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善逸が指さしたのは肉まんのお店だった。
食べ歩きにも適した温かい肉まん。私はすぐに頷いて、列の最後尾に並ぶ。
お店の外壁に貼られたポスターの文言によれば、結構有名な賞を受賞したおいしい肉まんらしい。
私はノーマルなひき肉まんを、善逸は少し大きめにカットされた豚肉が入った肉まんを買って、店員さんから受けとった。
ほかほかと湯気を立てる肉まん。善逸と並んで歩きながら、かぶりつく。

『お、おいひい』

「おいしー」

思っていたより肉まんは熱かったけれど、とてもおいしい。息を吹きかけて冷ましながら少しずつ頬張った。

「あ、Aのひとくち貰ってもいい？」

『え？うん』

善逸の豚まんとはちょっと味が違ったりするのかな、なんて呑気に考えてた私は、私の方にぐっと身を寄せてきた善逸によって思考停止した。
善逸は私の手元に少し屈むと、そのままぱくりと肉まんをかじる。
ふわりと空気が動いて、蜂蜜の匂いが近くなった。

…あれ、これ、よく考えると──いや、よく考えなくても、か、間接キス…？


「あ、やっぱりちょっと味付け違うんだ。これも美味しいね」

にこりと笑ってもぐもぐと口を動かす善逸は、自覚があるのかないのか。私は自分の頬が赤くなってないか心配になって、なんとも不自然に首を縦に動かすことしか出来なかった。
…ナチュラルに間接キス決めるなんて。
腹が立つくらい、ドキドキするんですけど。


「Aも俺の食べてみなよ。ほら」

ずん、と。目の前に豚まんが差し出される。
まだドキドキは治まってないというのに、次なる一手。え、これも、間接キス、だよね？

『えっ、ちょ』

「俺だけひとくち貰うのは悪いしさ」

…そういわれると、食べざるを得ない。
相変わらずの笑顔の善逸と豚まんの断面を交互に見る。あああ、もう。

『イ、イタダキマス』

覚悟を決めて私も豚まんを口にした。確かにちょっと味が違って、肉が大きめで、おいしいけど。ちょっと自分の心臓の音と熱にやられてしまいそうだ。

「おいしい？」

…しかも、善逸がそう言って微笑んで、ちょっと首を傾げてくるものだから。
ぎゅうん、と胸が締め付けられたように感じられて、叫び出したくなった。

『おいしい、よ』

細まった彼の瞳に吸い込まれそうになりながら、私は首肯する。


…さっきまで冷たい風に寒いと思っていたくらいなのに。たったひとくちで、随分体が熱くなった気がする。
熱さを誤魔化すつもりで、私はそっと息を吐いた。

青→←気合十分

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