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沖田side
·
彼女が椅子に座り、鍵盤に指を這わせる。
それだけで会場の空気が静まり返ったのがわかった。
審査員の視線が一気に注がれる。
彼女はそれらをものともせず、静かに鍵盤を鳴らした。
ショパン、24のプレリュード、前奏曲第15番「雨だれ」。
旋律が流れ始めた瞬間に、分かる。
やはり、違うのだ。彼女の──鮎川Aの演奏は、他の人と違う。
もちろん、俺の演奏とも段違いなわけで。
さっき俺も「雨だれ」を弾いたはずなのに、全然、聞こえが異なる。審査員の反応も。
…その場にとどまっているのが嫌になって、俺はそっと会場をあとにした。
***
家に帰る頃には、小雨が降り出していた。
今日は俺の通う音楽大学内でのピアノオーディションだった。
かなり練習して、俺なりにうまくあの曲を表現出来た、と思ったのに。鮎川の演奏を聞いた途端、その自信は消え去ってしまった。
鮎川は稀代の天才と呼ばれているのだ。同級生からも教授からも評価は抜群に良くて、たくさんのコンクールで賞をとっている。そんな人間と学内で戦って勝てるわけがないのだ。
あーあ、とため息がこぼれる。傘を傾け、またため息をついた。
俺には才能がないのか。
見せつけられた圧倒的な差に絶望したくなる。
…ピアノ、やめた方がいいのではないだろうか。
かつて考えもしなかったことまで思いつく。
いかん、少し気分を晴らそうと近くにあった古本屋に入った。
無意識に足が動くのは音楽関係の書籍のコーナー。矛盾してんじゃねえかと自分を笑いたくなる。
【バロック・ロココ時代における音楽の変遷】と題された本を取り出そうとしたその時、ばらりと何枚かの紙が本棚の隙間からこぼれ落ちた。
かがんで、拾い上げる。
「…楽譜…？」
やけに黄ばんでいて、赤いシミが所々に付いている。なんだか物騒だ、と思いつつ曲名をみるも、外国語で書かれていて意味がわからなかった。バーコードもないし、売り物じゃないのか。
ピアノの譜面に間違いはなさそうだが、異常な出で立ちに瞬きをしてしまう。…まさかこの赤いシミ、血じゃないよな？
「…持ってくか」
好奇心に耐えきれず、俺は何枚かの譜面を自分の鞄に突っこんだ。なんだか悪いことをしているような気分になったので、先程の本をレジに持っていって購入する。
店を出てから近くのカフェに入り、端っこに腰を下ろす。楽譜を取り出して、スマホの検索ウインドウに曲名を一文字ずつ入力した。
「…さかさま少女のためのピアノソナタ？」
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みるくれーぷあいす(プロフ) - ちぃなさん» ありがとうございます！これからも楽しんでいただけると嬉しいです。 (2019年10月30日 16時) (
レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
ちぃな - ホラー好きなので嬉しいです！更新楽しみにしてます。 (2019年10月29日 14時) (レス) id: 43ae00df60 (このIDを非表示/違反報告)
みるくれーぷあいす(プロフ) - 綾葉メグさん» ありがとうございます！マイペースな更新ですが、これからもよろしくお願いします。 (2019年10月27日 17時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
綾葉メグ(プロフ) - 面白いです！更新楽しみにしてます！ (2019年10月27日 15時) (レス) id: fe3feae032 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みるくれーぷあいす | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ykoma1218/
作成日時：2019年10月15日 1時
