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妙side
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九ちゃんが突然少し大きな声を上げた。そのまま続ける。
「今日って、八月三日だったな。覚えてるか?大学のサークルで行った、合宿のこと」
「…ああ!たしかに今日だったわね!」
九ちゃんに言われて思い出す。六年前、大学二年のとき、所属していたテニスサークルの合宿があったのが、今日だった。
「確か雨で全然テニスできなかったのよね」
「そうそう。ここまで同じだとはな」
一泊二日で、少し山の方にあるペンションまで合宿に行ったはいいものの、突然豪雨に見舞われ、結局何も出来ずに帰ってきたのだ。
長谷川さんも驚いたように「おお」と声を漏らしている。
カチカチとウインカーがついて、車が交差点を右に曲がった。
「そうだ、その時確かイタズラしなかったっけ?」
九ちゃんの言葉に、記憶を手繰り寄せる。
「もしかして、近藤さんにやろうとしたアレのこと?懐かしいわね」
近藤さんとは、かつてサークルにOBとしてよく来ていた人だ。…明るいしいい人なんだけど、やたらと私にアピールをしてくる人だった。結婚してくれとか言ってたかも。その度に確か色々かましてやってたけど、なかなか諦めなかった。
「その時泊まってたペンションの近くの草むらの草をあちこち結んだのよね?近藤さんが来たら転ぶようにって」
「止まってたペンション、【白樺荘】だったか?その近く、かなり雑草が生えてたしね」
「結構宿泊施設が多かったものね。隣も民宿で、名前は…【りんどうの里】で」
どんどん記憶がよみがえってくる。懐かしい。
結局雨によって近藤さんが合宿に来ることはなく、結んだ草は全く意味をなさなかった。そのこともおかしくて私と九ちゃんは思わず顔を見合わせて笑ってしまう。ただ疲れただけのイタズラ未遂だ。
その時、長谷川さんが一言呟いた。
「──因縁だ」
因縁?
私は長谷川さんに、どういうことですか、と聞く。彼は一旦口をつぐんだ後、いきなり喋り始めた。
「いや、ね。さっきの夢の話、あるでしょう?あの死んだ人って、娘なんですよ。俺、何年か前まで田舎で民宿やってたんです」
突然のうち明け話に困惑する。九ちゃんも隣で首を傾げている。
「実は、その民宿の名前──【りんどうの里】なんです」
「…えっ!」
かつて私たちが泊まったペンションの隣の民宿だ。長谷川さんはそのまま語り続ける。
「まあ、娘が亡くなってから、閉めてしまったんですがね」
再びウインカーの音がして、今度は左に曲がった。
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みるくれーぷあいす(プロフ) - ちぃなさん» ありがとうございます!これからも楽しんでいただけると嬉しいです。 (2019年10月30日 16時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
ちぃな - ホラー好きなので嬉しいです!更新楽しみにしてます。 (2019年10月29日 14時) (レス) id: 43ae00df60 (このIDを非表示/違反報告)
みるくれーぷあいす(プロフ) - 綾葉メグさん» ありがとうございます!マイペースな更新ですが、これからもよろしくお願いします。 (2019年10月27日 17時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
綾葉メグ(プロフ) - 面白いです!更新楽しみにしてます! (2019年10月27日 15時) (レス) id: fe3feae032 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みるくれーぷあいす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ykoma1218/
作成日時:2019年10月15日 1時