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ベ ー ス 5 ページ5

Aside
·

カレンダーは10月になって、蝉の声は消えた。
日差しも随分柔らかくなった。
相変わらず朝休みの教室は《ジュケンセイ》ムードだ。

「Aー、今日放課後図書館行こうヨ」

『あ、ごめん、今日はちょっと』

長袖になった制服をさすって、私は答える。
私の右手には、ノートが握られている。
少しずつ、息苦しさも、消えてきている。
彼の、お陰で。

「あ、分かった。アイツだろー」

神楽はまだ登校していない土方の席を指さした。

『いや、そんなんじゃないってば』

言葉とは裏腹に、鼓動は高鳴る。
土方と会話を交わす度、互いを仲間だと認識し合う度、胸が苦しくなる。心地よく痛む。
文化祭のステージの、演奏後に似ているな、と思う。

「ま、せいぜい楽しめヨ。ぷぷっ」

ぷぷってなんだよぷぷって。
神楽の言葉に、私は吹き出した。


***


『うわあ、久しぶりの部室だあ』

今日の放課後の約束。それは、軽音楽部の部室で、久しぶりに演奏しよう、というもの。

「だな。あ、アンプの位置変わってる」

部活が休みの日を狙って、鍵を借りた。
顧問のツッキーは、快く部室を貸し出してくれた。

『なにやる?私あれがいい』

「あれじゃわかんねぇよ」

キーボードの椅子に座って、電源を入れる。
土方もコードをアンプに差し込んで、ピックを握る。チューニングをする。
懐かしい。そして、愛しい。

曲を決めて、合わせる。

両手を沈ませて、音を奏でる。
思いの外指はよく動いて、ミスも少なかった。
滑らかに音を滑っていく。
ベースの低い音が重なる。捻れる。混ざる。
気づけば、あの時みたいに、世界は輝いている。空間が揺れている。
この感覚。この感覚が好きで、私はずっと音楽をやってたんだ。
土方と目線を合わせる。口角が上がる。
パズルのピースがあったみたいな喜びが突き上げる。

ただただ、楽しさに身を任せる。
高鳴る鼓動に、身を任せる。

『土方っ!もう一曲やりたい』

「じゃああれだな」

『あれじゃわかんないって』

何もかもが私たちの味方だ。ここが世界の中心だ。誰がなんと言おうと、ここは私たちの全てだった。

土方の目を見る。彼も私を見る。彼が笑う。つられて私も笑う。


___どうか、このまま。
この時間が、続きますように。


***

鍵をツッキーに返して、校舎を出る。

オレンジ色の空が、二人を包む。

「なぁ、A」

『ん?』

「またやろうな」

『もちろん!』

私達の世界は、輝いていた。



__ベース 終__

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みるくれーぷあいす(プロフ) - 鈴神さん» 嬉しすぎるコメントありがとうございます!これからも鈴神さんにそう思っていただけるよう頑張ります!よろしくお願いします。 (2019年8月24日 13時) (レス) id: 0de76de774 (このIDを非表示/違反報告)
鈴神(プロフ) - こんにちは!突然ごめんなさい(汗 作品読ませて頂いたんですが、一人一人の気持ちがとても丁寧に書かれていて一つ一つの話にすごく惹かれました!!ほんとに素敵なお話ばかりなのでこれからも応援してます!頑張ってください!! (2019年8月24日 1時) (レス) id: de3968cf62 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みるくれーぷあいす | 作成日時:2019年8月13日 1時

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