オ ワ リ 5 ページ30
神威side
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昨日の恨みを拳で晴らさなくてはならないと考えつつ俺は電車をおりた。
いくつかの大学の最寄り駅であるこの駅は、学生達で溢れかえっている。
《気楽に恋愛してられんのも今のうちだしねィ》
そうは言うけれど。間違いなく相手を怒らせたのは俺で、今どこにいるかもわからないんですけど。電話しようとしたらこの電話番号使われてませんって言われたんですけど。
「モラトリアムにアドレセンス、か」
モラトリアムの初め、アドレセンス真っ只中だったはずの俺はいつの間にか両方の終わりに近づいていた。それを抜ければカラカラの砂漠。砂漠がどんなところかだなんて、俺には一切想像がつかない。
彼女は、Aは。俺と別れてからのその期間を、どう過ごしてきたのだろうか。
残り少ないその時間を、どう過ごしていくのだろうか。
考えてみても思い出されるのはAの笑顔ときらきら光る言葉だけ。彼女は俺の言葉を覚えていないかもしれない、とふと思う。だって何も伝えていなかったのだから。好きも言えてなかったのだから。
駅から大学までは少し遠いので、バスを使っている。進学して勉強しようと決意したのも彼女の影響だったかもしれない。ハゲ親父やバカ妹には随分びっくりされたっけ。
いつものバス停に向かおうとして、一歩を踏み出して___
「……っ」
息を呑んだ。
あの頃と全く変わっていないAが、俺の少し先を歩いていた。
間違いない。別れる時も、あの後ろ姿を見たのだから。彼女だ。ずっと恋していた、彼女が俺のすぐ近くにいた。
Aは俺に気づいていない様子で、ただ前だけ見て足を動かしている。
ほとんど無意識のうちに、彼女を追いかけていた。距離はすぐに縮まる。あと少し。
彼女は俺の言葉を覚えていないかもしれない。
そのことを思い出して、足が止まる。
何も伝えていなかった重みは、まだまとわりついてきた。
…けど。もう一度、君と、会いたい。また、話を、聞かせて欲しい。残りの贅沢な時間を、君と一緒にいたい。
今度こそ伝えるのだ。自分の想いを。
彼女のことが、好きだということを。
足を速めて、彼女の背中に追いつく。
青春の終わりをはらんだ空気を、肺いっぱいに吸い込む。
Aの肩に、手を掛ける。
怒るかもしれない。
無視されるかもしれない。
拒絶されるかもしれない。
それでもいい、と心から思った。
__その時大人な振りをしないで、ちゃんと傷つけばいい。
「あのさ。俺__」
__オ ワ リ 終__
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みるくれーぷあいす(プロフ) - 鈴神さん» 嬉しすぎるコメントありがとうございます!これからも鈴神さんにそう思っていただけるよう頑張ります!よろしくお願いします。 (2019年8月24日 13時) (レス) id: 0de76de774 (このIDを非表示/違反報告)
鈴神(プロフ) - こんにちは!突然ごめんなさい(汗 作品読ませて頂いたんですが、一人一人の気持ちがとても丁寧に書かれていて一つ一つの話にすごく惹かれました!!ほんとに素敵なお話ばかりなのでこれからも応援してます!頑張ってください!! (2019年8月24日 1時) (レス) id: de3968cf62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みるくれーぷあいす | 作成日時:2019年8月13日 1時