夕暮れの関係 ページ48
Aside
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突然現れた副長さん。
有難くタオルを受け取って体を拭く。
冷静になって、本当に意味わからない行動をしていた、とちょっと恥ずかしくなった。
沖田さんがノッてくれたからよかったけど。
「なんかよォ、分かったわ」
副長さんは何故か照れたように頭に手をやっている。
「総悟とお前が結婚したわけが」
「……へ?」
結婚、はしてるんだけど。
あくまでも契約で、副長さんのいう《結婚したわけ》、とは。
「疑ってたのが馬鹿みてえだわ」
じゃーな、末永く、と言って副長さんは背を向ける。
疑ってたのが、馬鹿みたい。
『疑い、晴れたんですかね…?』
「そうじゃ、ないですかィ…?」
副長さんがいなくなった後もぽかんと土手を見つめていた私と沖田さん。
顔を見合わせて、同時に吹き出す。
『あはははっ、よくわかんないけど良かったです』
「ふくく、じゃ、風邪ひかないうちに帰りやしょう」
川から上がって、足を拭いて、サンダルを履いて。すごくすっきりさっぱりした気分で、夕暮れの空を見つめて。
私と沖田さんが結婚したわけ。
副長さんが考えるそれは、もしかしたら、私が沖田さんを川に誘ったわけなのかもしれない。
この時、私は心から、この人と一緒でよかった、と思えた。
***
夕焼け小焼けのメロディが流れる。
夏は毎日6時半に流れるこのチャイムは、この辺に住む子供たちにとって《もう帰りましょう》を意味しているらしい。
並んで歩く私たちの横を駆け抜けていくちびっ子たち。
「そういや、」
沖田さんはふと子供たちに向けていた視線を私にうつした。
「夕焼け小焼けのこと、どっかではパンザマストっていうらしいですぜ」
『ぱんざますと?』
ゆうやけこやけとぱんざますと。全然言葉が違う気がするけど。
沖田さんによれば、夕焼け小焼けを流すスピーカーをパンザマストというそうで、それが曲そのものとして定着したらしい。
「なんか厨二ですよねィ」
『確かに』
そういう沖田さんの表情は穏やかで。
さっきまでのつらそうな様子は微塵もない。
良かった。あたたかい波が広がってくような嬉しさが体にしみ渡る。
何もしていないのに、心臓が音を立てて。
『沖田さん』
私はほとんど無意識のうちに、彼を呼んでいた。
『今日は、ありがとうございました』
沖田さんはゆるりと笑い、こちらこそ、と言った。彼の髪に残る水滴がきらりと光る。
二人で歩く帰り道に、パンザマストが鳴り響いた。
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作者名:みるくれーぷあいす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ykoma1218/
作成日時:2019年7月2日 21時