焦りの関係 ページ45
沖田side
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Aさんは、俺の事を悲しそうだと言った。
そして、俺の手を引っ張って、色々なところを見て回った。
その間、幻影は消えていて。ここ数日ぶりに心から笑いながら初めて、思っていた以上に自分が追い詰められていたのを知った。いつのまにか、胸に、冷たく硬い粘土のようなものが敷き詰められていて。それにすら気づいていなかった。
もう大丈夫だろう、と安心して。
だから、完全に油断していた。
『そう、ですか』
Aさんは寂しそうで。眉毛を下げ目線を落とすその姿に、また幻影が現れた。
「___っ」
何度も、何度も。
何なんだろう、本当に。今更できることなんてない。もう姉上はここにいないのだから。それを責めても、もう何も、戻ってこないし取り返せない。失うことも出来ない。
『私、今日、たのしかったです』
彼女の言葉に、何とか意識を引き摺りだした。
胸の中の冷たい何かを、無視するように息を吸って話す。
「俺も、何気に楽しめやした」
『…また、行きませんか』
びっくりしてAさんを見る。Aさんも自分の言葉にびっくりしたようで、『あ、あーと、それくらい楽しくて!イチャイチャはもちろん抜きでいいんで!ええとええと』と焦っている。
「いいですぜ、行きやしょう」
実際、かなり楽しかった。同年代の知り合いといえば万事屋のチャイナやメガネくらいで、当然仲良く買い物なんてしない関係だった。だからこそ、Aさんとのショッピングは楽しくて。幻さえなければ、もっと良かったけど。
『…はい!』
Aさんは嬉しそうに笑ったあと、俺の顔をじっと見る。
本当に申し訳ない、と思う。今日はずっとAさんに甘えてしまっていて。
「どこかまだ、回りたいところはありやすか」
そうですね、と腕を組むAさん。
『じゃあ、ロフ〇に行きたいです』
カーテンのシャー、ではなく、文房具を見たいのだという。
俺は彼女の手を握って、歩きだした。
***
いつのまにか日が傾きだしていた。
もうとっくに土方は屯所に戻っているだろう。結局、午後は店周りに熱中してしまい、作戦をすっかり忘れていた。
そろそろ帰ろう、という雰囲気がお互いに流れて、商店街から外れた川沿いの道を歩く。ここをまっすぐずっと進めばマンションだ。
『副長さんの疑い、晴れたといいですね』
「明日、それとなく探ってみるつもりではいやすけど」
もうとっくに手は離していて。
横を歩くAさんをちらりと見る。
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作者名:みるくれーぷあいす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ykoma1218/
作成日時:2019年7月2日 21時