敬語の関係 ページ19
沖田side
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「え、超カタコトにしか聞こえないんですけど」
『いやいや!日本語ですよソーゴサン!』
そんなに意識することか?と一瞬思ったけど、考えてみれば人の下の名前を呼ぶことってなかなかない。考えてみれば、俺が下の名前で呼んだ人ってひょっとしたらAさんが初めてかもしれない。
そう考えると、なんか今まで自分が何も考えずにAさんと呼んでいたのはなかなか凄いことではないか?と自覚が押し寄せてきて、何となくAさんから視線を逸らした。
「じゃ、あ、とりあえず名前の件は置いておくとして、敬語、なんとか、しますかィ?」
Aさんの目を見ないまま俺は聞く。
『け、敬語…うーん、これは本当に癖ですよね…』
同い年なのだから敬語を使う必要はないはずなのだが、何となく二人の間には《敬語》という壁があって、それがお互いのテリトリーへの侵入を防いでいる、という気もする。
「なんか、このままでも良い気がしてきやした」
『あ、私もです』
そこでようやく顔をあげることができて、ふう、と息を吐く。
先程のごちゃごちゃした焦りが一気に引いていく。
『まあ、そのうち、できたらって感じでいいですよね』
「はい、できたら」
Aさんは少しだけ笑って、『夕飯でも食べます?』とキッチンを指さした。
部下達の見事な働き(戯言付き)によって、今すぐ使える!という状態になっているキッチン。
「え、はい、そうですねィ」
『じゃ、私、なんか買ってきますね』
Aさんは自室に行ってバッグを持ってくる。
「あぁ、俺が行きやすぜ?」
『いえいえ!タダで住まわせてもらっている身として家事はこなすんで!』
では!と玄関に向かうAさん。
そうか、俺はこの人と今日から一緒に暮らすのか。
『あ、沖田さん!』
彼女は突然振り向いた。かと思うと、
『いってきます!』
と何故か笑顔で敬礼する。
俺もつられて吹き出しながら、
「いってらっしゃい」
と返した。一回敬礼してみたかったんですよ、とかなんとかいいながらAさんは靴を履いてドアを開け、外に出て行った。
ガチャン、ガチャ、というドアの閉まる音と鍵の閉まる音を聞きながら、俺はふと思う。
誰かに、いってきますと言われるのは、いってらっしゃいというのは、姉上と一緒にいた時以来ではないか。
そのことにちょっと気恥ずかしさを感じながら、俺は自室に向かった。
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作者名:みるくれーぷあいす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ykoma1218/
作成日時:2019年7月2日 21時