incompetent-悲しみの構図- (ページ3)

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「ねえ」

視界が影で覆われて顔を上げればこの学校の中では比較的人気者の武田Aが立っている

「やっと気づいた。無視しないでよ。」

ずっと声かけていたらしい

学校で俺に話をかけてくる人なんてそうそう居ないから、さっきから声は聞こえていたものの自分には無関係だと思って反応しなかった

けど、言い訳するのも面倒で素直に謝る

「ごめん」

そう言うと彼女は満足気に笑顔を作り
向かいの席に躊躇なく座った

「ねえ、何読んでるの？」

彼女が送った目線の先には
読んでいた本がある

手を栞がわりにして表紙を見せれば

ああ、知ってる

と彼女は言った

「途中までよんだことあるよ」

「途中まで？」

途中まで読んで知ってるなんて言うやつ初めてだ
それは知ってるというのではなく、分かるが正しい

これを言うべきか言わないべきか
自分の中で葛藤していると彼女は気にせずに話し出した

「なんかつまんないよね、この話。
現実味ないっていうかさ～」

「そうかな」

虐待に耐えながら生活していた少女を
一人の男が誘拐して助けると言うストーリー

自分が犯罪者になってまで少女を守る主人公に
すくなくとも俺は心打たれていた

「北斗くんって意外と情に厚いタイプなんだね～」

小説よりも俺に興味が湧いたのか
顎に手を置いてニヤニヤと俺の顔をみてくる

いままで避けてきた人との関わりが始まるような予感がして俺は心の中で深いため息をついた