私と彼の不思議な日々。

私の五話 ページ10

隣から物音がして、足音が聞こえる。
出掛けた？出掛けたのか？
よし、うん、とりあえず色付けしよう。

インスピレーションに従って、油絵具をキャンバスに塗りたくる。
所謂抽象画の部類なんだろうか、私の絵は。
何、と言われても難しい物を描いている自覚はある。
たまに人や動物や物を描くけど、理解された試しがない。
評価はまぁまぁ。てか、はっきり分かれる。
良いと言う人と、わからないと言う人。
別にどうでもいいんだけれど。

一心不乱に色をつけて行く。
暗い色、明るい色、キャンバスで混ぜ合わせて、私の世界を作り上げる。
デッサンなんて、ほぼ無いに等しいけど、インスピレーションを掻き立てるために欠かせない作業。
１段落したところで手を止める。
すると数回鳴らされるインターホン。
次は誰だろ、あ、新しいキャンバスかな。
チェーンをつけたまま開けると、ニコニコの、お隣さん。

「どーも、」
『っ、！』
「いや待って、」

くくく、靴、靴で止められてる！
締めれない！ねぇ！
空いた隙間から紙袋を差し出される。
何、何これ、毒でも入ってますか？！

「昨日と今朝のお詫び。あと改めて、常田大希って言います」
『は、はいっ、』
「…A、何さん？」
『…いや、名前は、ちょっと、』
「何さん？」
『Aです！！』
「A、ね。じゃ、よろしくー」

すっと爪先を抜かれてひらひらと手を振られる。
あれ、お髭があるけど、案外笑うと可愛い…
じゃなくて！！
渡された紙袋の中はお煎餅だった。
…お煎餅には罪がないので、食べることにした。
美味しい、なぁ。
つねただいきさん。
怖いけど、少しだけ、怖くない面を見つけた気がする。

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