私と彼の不思議な日々。

俺の十五話 ページ31

「え、」
『描きたいものが浮かばないんです。これ、私の絵です。見せるので、聞かせてください』

真剣な眼差しでキャンバス数枚を渡される。
断る理由もなくて招き入れた。
MVも見せたいけど、今じゃない気がして、スマホに保存したプレイリストを表示させる。
何がいいだろう、今の彼女に聞かせる一番は。
そう考えて、飛行船をチョイスし、再生する。

音を聞いた瞬間、また目付きが変わった。
瞬きも少なくなり、何かを思い描く顔。
ランダム再生のプレイリストは、次々と俺らの曲を流していく。
その間に渡されたキャンバスを一枚一枚じっくりと眺める。

暗い闇のある絵。
不気味とかじゃなく、光と影がしっかりしている、と言うか。
俺のインスピレーションがすげぇ刺激される。

お互い無言で作品を評価し合う時間が続く。
不意に耳を澄ませれば、流れるのは三文小説。
彼女を見れば、先程の顔のまま、涙を流していた。

「…どした？」
『いえ…この、歌声。…なんだか、絶望が凄くて、』
「絶望？」
『彼の歌う、【あゝ】ってフレーズが、とても、絶望的に聞こえてしまって…この二人が、永遠に報われないんじゃないかって、思わされて…間違った解釈、ですか？』
「いや…感じ方は人それぞれ、解釈もそうやから」
『この歌の歌詞、見れますか？』
「うん、…これ」
『ありがとうございます』

絶望、か。
並べたキャンバスを見つつ、ベランダでタバコを吸った。

もっと、親しい間柄なら、彼女の涙を拭えただろう。
なんて、どうにもならねぇことを思いながら、晴れた空に空笑いした。

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