｢こんにちは、もう一人の私｣

▽ 平凡 ページ15

しんと静まり返っていた部屋に、目覚まし時計のアラーム音が鳴り響き始めた。
五月蝿いなあ……
私は布団の中から手を伸ばし、ダンと乱暴に音を止める。
ただの一般の人間の朝。

｢七海〜！！ 早く下りてきなさい！ 朝ごはんよ！｣
下から母の叫び声がする。
──今日は機嫌がいいらしい。
声色で母の機嫌を確認し、
｢はーい！｣
と大声で返事をしたあと布団から飛び出して、
私は部屋をあとにした。

そして今日も、いつもの“平凡”な一日が始まろうとしていた。

＊＊＊＊

｢うわあ、雨だ｣

朝食を食べている途中で降り出した雨を見て、思わずため息。
朝に靴下が濡れると一日中じめじめした気分になるから困る。

｢やった、運動会練習なくなった｣
横でそう喜んでいる弟を見て、雨で喜べるなんて羨ましいと思った。

テレビ番組では前まで
｢中二女子謎の死亡？！｣｢今年初の例の事件発生！｣｢今後の中学二年生の運命はいかに……？！｣
などと様々な専門家が意見を言い議論していたが、今はスケートで誰かが優勝したとか、日本のどこかが世界遺産に登録されたとか。
……とにかく平和なニュースばかりだ。
まあ、いい事だろう。

私はニュースを読み上げる女性を見て｢お勤めご苦労様です｣と思う。
朝早くからこんな人前に立って言葉を発するなんて、私だったらたまったものじゃない。

……なんて考えている暇じゃなかった。
思ったより時間がない。こんなニュースたちに気を取られていた私が馬鹿だった。
あわてて食パンを口に押し込んで玄関へ行き、靴に防水スプレーをかける。
防水スプレーかけても結構染みるんだよなあ。
まあやらないよりはマシだろう。

いつもより憂鬱な一日の始まり。

行ってきますと気だるげな声を残し、私は家を後にした。

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