【ヒプノシスマイク】這いつくばってろ【山田三郎】

矛盾を抱えた眼 ページ9

私のThe Dirty Dawgのイメージは、反逆者であった。


女性を中心とした社会秩序が始まって、暴力は根絶された、ということになっている。


男性は重い税に苦しめられて、更に男女の埋まらない差にも苦しめられている。


私が女ということもあるがそれ以前に、彼らの登場は兎に角衝撃的だった。


中王区によって与えられたマイクを握り、そのマイクで中王区に抗おうとしていた。


それをイケブクロの人間のひとりとして見ていた私は彼らに憧れもしたし、畏怖もした。


山田一郎は特に、私にとって恐怖の対象であった。


理由は、真っ直ぐな眼。とにかく真っ直ぐな眼。


思わずたじろいでしまう眼。


今日夕飯を食べていた時に見た、山田くんの2人目のお兄さんも真っ直ぐな眼であった。


しかし、山田くんは少し違う眼をしていた。


真っ直ぐだけれど、真っ直ぐじゃない。少し矛盾を抱えた眼。


改めて、山田一郎を見るとやはり変わらず真っ直ぐな眼。


｢Aちゃんがいるなら、三郎のことも心配じゃないな｣

｢……はは、そんなことないですよ｣

｢……Aちゃんも、達観してるところがあるな｣

｢えっ……私が？まさか、私は馬鹿なんですよ、そんなところ……｣


山田一郎は私に目線を合わせて笑う。真っ直ぐな眼が私を捉えて逃がさない。


ああ、ほんとうに苦手。こういう眼がとにかく苦手。まるで私の事を全て見透かされているような眼。


私はそんなに真っ直ぐで正当な人間なんかじゃないのに。


山田一郎の瞳から零れる光が私を照らした。チカチカと輝いていた。


｢人のことをよく見てるところとかさ。……三郎は、人に理解されにくい子なんだ。俺もそうだった、俺と三郎はそういうところよく似てるんだ｣


そう言って笑う山田一郎の顔は、大人びていた。


とても未成年の顔ではない。私が見てきた大人はこんな顔を見せたことは無かった。


｢俺も三郎も、不器用なんだ。Aちゃんが三郎のことをしっかり見てくれているから、きっと三郎も学校に通ってくれているんだと思う｣

｢……そんな、私は……｣

｢三郎が友達を見せてくれたの、初めてなんだ。あいつはいつも、友達なんてものは必要ないって言ってひとりでいたから｣


親でもない、兄なのに、こんなにも家族に、弟に優しくできるのか。


私には理解できなかった。


でもそれ以上に、山田くんが羨ましくてたまらなかった。

考→←山田くんは

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す