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山田くんは ページ8

ほかほかのご飯を家族で囲んで食べる。


こんなことが、こんなことが愛おしいなんて知らなかった。


段々家族でご飯を食べなくなって、家に夜遅くに帰るようになって、私は初めてこの時間が愛おしいものだと知った。


あぁ、美味しい。勿論、山田くんのお兄さんが作ったカレーは美味しい。


でもそれ以上にこのカレーは美味しい。


……気がついたら、涙がぽろぽろ零れていた。


山田くんと山田くんのお兄さんたちは私を見てギョッとしていた。


「えっえっどうしたんだ?何か嫌いなもの入ってたか?」

「えっカレー辛かったのか?」

「A、おい大丈夫か!?」


私はスプーンを置いて、袖で涙を拭いた。


不細工な笑顔を浮かべて言った。


「……あまりにもカレーが美味しくて、つい」


私の言葉を聞いた3人は笑った。


先程山田くんにいち兄と呼ばれていた山田一郎は「お代りもまだあるからな、いっぱい食えよ」と言った。


カレーを食べ終わった後、私は帰ろうとすると山田一郎が送ると言って上着を羽織った。


すると山田くんはパタパタとスリッパの音を立てて駆け寄ってきた。


「いち兄、僕が送りますから」

「もう夜も遅くて危ないから、三郎は二郎と家に居てくれ」

「でもっ」

「な?」


山田くんはあまり納得がいっていないといった表情で引き下がる。


……


とっくに夜が更けていた。山田一郎は私の顔を見て言う。


「Aちゃん、って言ったかな。三郎と仲良くしてくれてありがとうな」

「あ、いえ。私が山田くんに相手してもらってるって感じで……」

「はは、三郎は達観してるところがあるからなぁ。なんか人と関わるのを避けたがるんだよ」

「山田くんは、優しいから」


山田一郎は少し驚いた顔をした。


「山田くんは優しいから、自分が話すことによって相手がどんな気持ちになるか分かるんです、きっと。だからあまり人と関わらないんです」

「ど、どういうことだ?」

「山田くんは頭がいいから人と話せば、『あいつは頭がいいからなぁ』とか『あいつに何言っても無駄だよ』とか言われるのが分かるんです」

「なるほどな……Aちゃんは三郎のこと、よく見てくれているんだな」


そう言って笑う。この笑顔は人を安心させる魔法だ。


元The Dirty Dawgの山田一郎とは思えない優しい笑顔だった。

矛盾を抱えた眼→←いただきます!



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りんご - この作品は一言では表せないそんな素敵な作品に感じました。三郎と主人公の心情の変わり方が自然だなって思いました。是非とも作品の続きを見たいです! (4月1日 10時) (レス) @page44 id: 169b1ab724 (このIDを非表示/違反報告)
海老天ぷら - マカロニさん» コメントありがとうこざいます。返信大変遅れて申し訳ございません!『人間失格』は非常に私に影響を与えた本で、とっても大好きです!ただ、この作品は私の抱えている気持ちを綴っているものになりますので、温かく見守って頂けたらと思います! (2022年6月4日 23時) (レス) @page35 id: 8ac8a7e5a1 (このIDを非表示/違反報告)
マカロニ(プロフ) - コメント失礼します。作者様もしかして、太宰治の「人間失格」好きですか……?「食事が何かの儀式のよう」という表現が出てきたので気になりました。違っていたらすみません! (2020年8月11日 22時) (レス) id: 30ec427a94 (このIDを非表示/違反報告)
海老天ぷら - らあなさん» コメントありがとうございます!夢主ちゃんの気持ち・環境等は結構悩みながら書いてるのでそう言って頂けて嬉しいです!山田兄弟と夢主ちゃんの絡み好きなのでもっと書きますね!(え)更新頑張ります!! (2020年4月26日 19時) (レス) id: db1ea870ef (このIDを非表示/違反報告)
海老天ぷら - ぱあたんさん» コメントありがとうございます!嬉しいです、ありがとうございます!嬉しすぎて私が泣いちゃいます…(え)更新がんばります…! (2020年4月26日 19時) (レス) id: db1ea870ef (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:海老天ぷら | 作成日時:2020年2月10日 15時

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