触るな! ページ13
「あはは、ごめんね、変なとこ見せた」
「そんなことない、変なとこじゃない」
山田くんは俯く私の腕を掴んで、私の顔を覗き込む。
私からこぼれる涙を拭う。熱が伝わっていく。
「僕は、Aのためにしてやれることなんて何も無いけど、でも、傍にはいてやれる……いや、傍に居ることはできる」
「なにそれ……あはは、私は、別に……」
余計に溢れる涙。何にこんなに悲しんでるのか分からない。
わからないまんま、流れてくるこれはとにかく怖かった。
ひとりじゃ抱えきれなくて、家を飛び出した。
今日は大人しく家に居よう、きっと用意されていないだろうけどご飯を食べて、そしてお風呂に入って日付が変わる前に寝よう。
……そう思ってたのに。
仕事から帰ってきた母からの小言を聞き流すことも出来ず、そして夕飯何が食べたいのって尋ねる母の優しく聞こえる言葉が刃物のように私に刺さった。
抑止できず流れた涙を見て母は驚いて私の元に来た。
どうしたの、大丈夫よ。そう言って撫でる手があまりにも優しくて、私は振り払った。
まるで、私が今まで母に対して傷つけた言葉、行為全てを無償で許してくれるかのようで。……そんなのは駄目だよ。
私は母に怒鳴った。
『触るな!』
そう言って家を飛び出したの。
また流れる涙は視界に写る山田くんを掠めていく。
「山田くん、ごめん。何でもないから、今は1人にして」
「A……」
「お願い、私今君に何を言うか分からない。何も考えられないの、傷つけちゃう言葉沢山浴びせちゃうかもしれないから……お願い」
「……A」
自分が何を言っているのかわからない。
考えるより先に言葉が踊り出す。涙と一緒に零れて弾けていく。
やめて、とめて、ごめん。
山田くんは掴んでいる私の腕に力を込める。
耐えきれずその腕を振り払った。そして母に浴びせた言葉を放つ。
「触るな!」
山田くんは眉を下げてそっと優しく笑った。
そしてそのまま私を抱きしめた。
「大丈夫だよ、独りじゃないよ。僕がいるよ」
温もりは優しく、山田くんからは石鹸の香りがした。私の涙が彼の肩を熱く濡らした。
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りんご - この作品は一言では表せないそんな素敵な作品に感じました。三郎と主人公の心情の変わり方が自然だなって思いました。是非とも作品の続きを見たいです! (4月1日 10時) (レス) @page44 id: 169b1ab724 (このIDを非表示/違反報告)
海老天ぷら - マカロニさん» コメントありがとうこざいます。返信大変遅れて申し訳ございません!『人間失格』は非常に私に影響を与えた本で、とっても大好きです!ただ、この作品は私の抱えている気持ちを綴っているものになりますので、温かく見守って頂けたらと思います! (2022年6月4日 23時) (レス) @page35 id: 8ac8a7e5a1 (このIDを非表示/違反報告)
マカロニ(プロフ) - コメント失礼します。作者様もしかして、太宰治の「人間失格」好きですか……?「食事が何かの儀式のよう」という表現が出てきたので気になりました。違っていたらすみません! (2020年8月11日 22時) (レス) id: 30ec427a94 (このIDを非表示/違反報告)
海老天ぷら - らあなさん» コメントありがとうございます!夢主ちゃんの気持ち・環境等は結構悩みながら書いてるのでそう言って頂けて嬉しいです!山田兄弟と夢主ちゃんの絡み好きなのでもっと書きますね!(え)更新頑張ります!! (2020年4月26日 19時) (レス) id: db1ea870ef (このIDを非表示/違反報告)
海老天ぷら - ぱあたんさん» コメントありがとうございます!嬉しいです、ありがとうございます!嬉しすぎて私が泣いちゃいます…(え)更新がんばります…! (2020年4月26日 19時) (レス) id: db1ea870ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海老天ぷら | 作成日時:2020年2月10日 15時