EP.0 ページ3
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まるで、糸で引っ張られているかのように。
勢いよく飛び起きた。
冷たい汗が、頰を伝う。
自分を落ち着かせるように、息をついた。
＿＿＿＿＿＿＿＿変な夢を見た。
人々が、私から逃げていく夢。
悲鳴を、上げて。
化け物を見るかのように。
悲鳴を＿＿＿＿＿＿＿＿
先ほどの悲鳴が、
脳裏にこびりついて離れない。
本当に、変な夢だった。
私には「それ」をした記憶はない。
どれだけ記憶をたど、っても……………
………？
『わたしは……だれ…？』
思わず、そんな言葉が口から漏れ出た。
………………私は、誰だ？
違う、名前は覚えてる。
年齢も、家族も、覚えてる。
………普段の、記憶が。
………"日常"の記憶がない。
ぽっかり抜け落ちてしまっている。
その記憶だけ抜き取られたみたいに。
何も、思い出せない。
異常だ。これは、いったい何が……？
＿＿＿＿＿＿ふと。
先ほどの悲鳴が、脳裏をよぎった。
ぞくり。
その瞬間、体が震えるほどの興奮を感じる。
心が波立ち、騒いだまま落ち着かない。
おかしい、おかしい。オカシイ、けど。
また、"聞きたい"と思ってしまう。
はやく、はやく、はや＿＿＿＿＿＿
ぎゅ、っと力強く手を握り締め、興奮を抑える。
だめだ。よくわからないけど、これはだめ。
まず、状況整理だ。
落ち着いて、一つずつ。冷静に。
とりあえず、"自分"確認をしよう。
うん、そうしよう。
確認するため、膝から布団を退ける。
黒のワイシャツ、黒のスラックス。
……真っ黒だな。
某小さくなった名探偵の
犯人くらい真っ黒だ。
私の名前は、A。
職業や、日常は忘れてしまった。
ただ、それだけ。
…うん、特におかしなことはない。
じゃあ、自分の状況を確認しよう。
私は今、丁寧に作られた
黒いベッドに腰掛けている。
マシュマロのように、ふかふかとしている。
その生地はとても温かく、柔らかい。
ここまで丁寧に作られている、
ということは、
ここは恐らく、宿泊施設だろう。
知らない場所なのに、
妙な居心地の良さを感じる。
本能的に、そう感じた。
覚えてないだけで、
来たことがあるのかもしれない。
じゃあ、次は周辺を確認しよう。
首を動かして、辺りを見回した。
『あれは…』
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作者名：さくさくパンダ | 作成日時：2023年8月26日 13時
