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フロントに着くと、6色の傘が目に入った。
澄んだ海の中へ 静かに溶けていく太陽の赤、
遠くまで突き抜けて 晴れ渡った空の青、
春の終わりを告げた 若葉のように光る緑、
柔らかく溶ける 甘い蜂蜜の艶を帯びた黄、
日差しを遮る藤の花のような透き通る紫、
そして、昏い闇の絶望へと染まった黒………
それぞれの色が個性を
ぶつけ合って、そこに存在していた。
しかし、そこには 誰一人としていなかった。
まるで、時が止まっているかのように、
音も、風も、風景も、何も変化しない。
私と、彼しかいない空間。
後ろから来た彼の足音が、こつり、と響くことで、
しじまが破られた。
その音を聞いて、私は迷わず、黒の傘の方へと向かった。
まるで、誰かに操られているかのように。
自分の意思とは関係なく、手が動く。
________でも。
暗闇の中にいる私には、悪に染められている私には、
それしか似合わないから。
あんな美しい色には、触れることさえ叶わない。
指先が、黒の傘に触れた。
瞬間、声が頭に流れてくる。
…そうか。そうだったね。
なかむ先輩に頼まれたのも、
きっと、さっき縛ったあの5人だろう。
薬剤師の彼を除くと、4人か。
彼らなら、既に鎖を解いているかもしれない。
______いや、記者たちは不可能か。
鍵は、私が持ってるのだから。
ううん。
もう、そんなことは、もうどうでもいい。
さっさと "お出迎え" をしなくては。
最期の場所となるのだから、
丁重にもてなしてあげるべきだろう。
私は、私の仕事を全うするのみ。
『ああ、すみません……
まだ…やるべきことが、残っておりまして』
機械的に微笑んだ。
これにて失礼します、と敬礼をして、
階段の方へと進んでいく。
こつり、こつり、と。
一定のテンポで 私の靴音だけが響いていく。
「え、ちょ…!」
彼の止めるような 慌てた声も聞こえないふりをして。
私は軽く拍子を取るように、登って行った。
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作者名:さくさくパンダ | 作成日時:2023年8月26日 13時