ちいさな恋 3rd

＊ ページ37

Aside.


おとなりの北山さんとベランダ越しに話すようになってから少したった、ある日。



早めに仕事が終わって、最寄駅で地下鉄を降りると、バケツをひっくり返したような大雨。



「うそでしょ…。」



さっきまで降ってなかったのに…



予報にはなかったから傘も持ってなくて、小雨になるまで改札の前で待つことにした。






次の電車が来て、どっと人が改札を抜けてきたと思ったら、




"えっ…すげー雨！ "




って言う声がすぐ後ろから聞こえた。





ん……？





なんだか聞き覚えのある声に思わず振り返ると、そこにいたのは







「北…山さん…？」






"えっ、、"って小さく言ってこっちを見た、スーツ姿の男の人。





北「えっ…と、長澤、さん…？」




なんか、時が止まったみたいな顔してる。(笑)






「…はい、長澤です。(笑)」





北「…びっくりしたー。


声聞かなかったらわかんなかった。


この前、マスクしてたから！」








そっか、この前はちょっと風邪気味で、マスクしてたんだ。




「ごめんなさい、急に声かけちゃって。


聞いたことある声だと思って。」





北「いや、全然！



…雨宿り？」





「はい…。すごい雨ですよね。」




北「ほんと、電車降りたらこれだからびっくりしたよ。」






そう言いながら鞄の中をゴソゴソし始めた北山さん。



急に ぴたっ、と止まって、こちらを伺ってくる。





「…？」





北「…あのさ。」





「？…はい。」






北「嫌じゃなければ…



一緒に入ります？」




そう言いながらゆっくり取り出したのは、黒い折り畳み傘。




「えっ？！」





北「雨…まだ止みそうにないし、良かったら。」






「そんな！全然大丈夫なんで、気にせずに帰ってください！！」









北「…いや、そんな全力で断られるとちょっと落ち込むよ？(笑)」




そういって苦笑いの彼。




「えっ…？

あっ、そう言うわけじゃなくてっ！


二人で入ったら北山さんも濡れちゃいそうだから！



私全然止むまで待ってます！」






.








北「…じゃー俺が待ってる。」




「へっ？」




北「俺が待つから、長澤さんこれ使っていーよ。」





なんていいながら傘を差し出される。




「いやいや、北山さん！ほんと私のことは気にしないでください。」






そういって傘を両手でやんわり押し返すと

…あれ。ちょっと怒ってる、かも。

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