【進撃の巨人】自由と信念_Ⅱ【ツイステッドワンダーランド】 (ページ30)

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｢……アンタ、その怪我は？｣
｢誰だ手前ェ｣

な、と絶句する目の前をまじまじと見つめる。
知り合いのように話しかけてきたのだから、恐らく以前あったことがあるのだろうが、生憎彼はこの世界の人間を積極的に覚えるつもりはなかった。
アタシのこと忘れたわけ、と眉間に皺を寄せた彼。
毛先に行くにつれて紫へと色を変えるブロンドの髪は、アニと似ているような気がした。

｢ヴィル･シェーンハイトよ。アンタが刺された日に会ったでしょう？｣
｢……あァ、会ったな｣

どうやら本当に忘れていたらしい。
ヴィルは目の前にいる男を呆れて見つめた。
かなり身長の高い自分とぴったり並ぶその体躯は、自分とは違ってゴツゴツとしている。
亜麻色の髪だって手入れをすれば息を飲むような美しさになるだろうし、灰色の瞳だってアンニュイな雰囲気を醸し出していて見る人が見れば珍しいものだとわかるだろう。
鋭利に研ぎ澄まされた空気。少しだけ、息がしづらい。
輪郭に走る火傷は酷いものだった。
元が悪くないのだから尚更際立つ。彼の指がその傷跡に触れた。

｢忘れた。｣
｢……はぁ？｣

頭がおかしいのかこの男は。
聞けば、興味がない人間に負わされた傷なので覚えていないという。
だから、アタシのことも忘れてたってワケ？
ヴィルの問いかけは声にならずに消える。
影の落ちた目元。
磨けば光る。それは間違いない。

｢薬くらいは塗ったら？｣
｢必要ねェ。もうなんともねェしな｣

彼は、強い。
美しさというヴィルの最大の武器をものともしない、シンプルで無骨な強さ。
自分が手出し出来るものではない、とヴィルは直感で気づいていた。

｢アンタ、ジャックと今日は一緒じゃないの？｣
｢こないだ別のヤツにも聞かれたな、それ｣

そんなに気になるもんか、と呟く彼。
彼は周りに自分が与える影響の大きさに気づいていない。
もう一人の異世界人として突如現れた彼が、注目されないわけが無いのだ。
しかも校内で最凶の名を欲しいままにしているフロイドを伸し、挙句の果てには刺されたまま犯人を追いかけたときた。
寧ろ彼のことを知らない奴がいるとしたら、それは余程の世間知らずか己にしか興味のないナルシストだ。

｢あの子に酷いこと言ったんじゃないでしょうね｣

彼が目を見開く。
濃いような、薄いような絶妙な色合いのグレーが光に揺らいだ。
ふ、と冷たく細められた眼差しに鳥肌が立つ。

｢どうだろうな｣

事実は、時に嘘よりも残酷だ。