【進撃の巨人】自由と信念_Ⅱ【ツイステッドワンダーランド】 (ページ29)

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｢おい、アウドイン(･････)。｣
｢……手前ェに名前を教えた覚えはねェが｣

クロウリーだよ、と些か面倒臭そうに返すレオナ。
以前初めて彼と会った場所である雑木林に足を運べば、予想通り彼はそこに居た。
レオナにとって彼は、否、この学園にとって彼は異分子に他ならない。
この世界に懸命に馴染もうとしている監督生とは違い、彼は異質さを隠そうともせずに好んで孤立を貫いていた。
その孤立を崩したのが、レオナが治めるサバナクローの寮生、ジャック･ハウルである。
暫くは行動を共にする二人を見ていたが、ある日を境に再び彼は一人になった。

｢うちの寮生を随分悩ませてくれてるようだなあ？｣
｢……彼奴、手前ェのとこの寮生なのか｣

驚いた。
確かに彼はこの世界の何にも興味が無いと零していたが、真逆此処までとは。
大して興味もなさそうに呟いた彼はアンカーを引き抜き、太い枝の上に腰を下ろす。
下りてこい、というのも面倒でレオナも幹に腰を下ろした。
冷たく、湿った風が頬を撫でる。

｢で、彼奴に何言ったんだ？｣
｢事実を｣

端的に告げたその言葉は正鵠を射ている。
自分は、事実を述べただけだ。
ぽかんと自分を見上げた幼子、恐怖に腰を抜かした老人、赤子を庇うように抱え込んだ母親。
全部殺した。
眼前で大きな手に掬われていく仲間、歯と歯の間に挟まりながら自分を見ていた仲間、襲われかけた自分を突き飛ばした先輩、頭が吹き飛んだ状態で見つかった先輩。
全部、死んだ。
わかるわけが無い。喪失感も絶望も。

｢はっ、その事実如きで彼奴はお前の元を去ったってワケか｣
｢……彼奴は正しいな。｣

短い間しか一緒に居なかったが、そんな自分でもわかる。
正しく、優しい。
きっと良い両親の下で大切に大切に育てられてきたのだろう。
自分から離れられて良かった。心の底からそう思う。
鬱陶しいくらいにな、と顔を顰めるレオナ。
きっとレオナもレオナなりにジャックのことは気にかけているのだろう。

｢で、その事実ってのは？｣
｢……言うワケねェだろ｣

だよなぁ、と大して気にも留めていないような声。
実際レオナは彼が大人しく話すとも思っていない。
ぐしゃ、と黒く艶やかな己の髪を掻き混ぜて息を吐き出した。

｢……なんで元の世界に戻りたがる？｣

純粋な疑問だった。
人間の力が及ばない脅威に晒され、常に命の危険に瀕するような世界に。
彼が呟く。

｢止めねェといけねェからだよ｣

何よりも愛する仲間を。