【進撃の巨人】自由と信念_Ⅱ【ツイステッドワンダーランド】 (ページ25)

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｢葉巻、か？随分細ェけど｣
｢……開口一番それかよ｣

苦いだけの煙の匂いに顔を顰めながら、そう問いかけてきた彼にレオナも似たような顔で返した。
先日クルーウェルにレポートを提出しようと準備室に行ったところ、クルーウェルは部活の指導か何かで不在だった。これ幸いとレポートを出すついでに部屋を漁っていたらこれを見つけた、というわけだ。
獣人であるレオナは鼻が利く。
故に強い匂いのする香水や煙草はあまり好まないのだが、これはそこまで下品な匂いではないしどちらかと言えば好みの香りがする。
行き場のないムシャクシャとした気持ちが煙と共に霧散していくような気がした。
それを少し離れた場所から眺める彼。随分髪が伸びたような気がする。
輪郭を走る火傷。それよりも酷い傷が服の下に隠れていることをレオナは知っている。

｢一本いるか？｣
｢……煙は得意じゃねェんだ。｣

珍しい。
いつもなら要らないの一言で断るような彼が、少し口ごもってから迂遠に断ってきた。

｢喘息か？お前がそんなヤワな奴には見えねえが……｣
｢違ェよ｣

喘息だったらあんなに動けねェだろ、と視線を此方に向けることも無く呟いた彼。
目元に落ちた暗い影。灰色の瞳はどこも見つめていない。

｢じゃあなんでだ｣
｢……さァな。｣

はぐらかすような声。
何故あんな答え方をしたのか、彼もよく分かっていない。
要らないと一言断ってしまえばそこでお終いだったというのに、何故あんな含みを持たせた答え方をしてしまったのだろう。
知らなくていい。
お前の隣にいるのが親を殺し、のうのうと生きのびた犯罪者であることを。

『おかあさん、またけがしてる……』
『大丈夫よ。お母さんを心配してくれるなんて、アルは良い子ね。』

あかぎれだらけの、白い手。
ゆっくりと優しく撫でてくれたその手は、暖かくて優しかった。
夜が明けると部屋に入ってもいいと言ってきた母親の白い肢体はいつも傷が絶えなかった。
青黒い痣、真っ赤な手形、血の滲む傷跡。
消毒液どころか綺麗な水すら行き届いていなかったあの場所で、彼にできることは懸命にボロ布で傷を拭うことだけ。

『……おかあさん、なんでまたあの人にお金あげたの』
『あの人はね、アルとお母さんの恩人なんだよ。』

母が必死に稼いだ金を持って行ってしまう女。
ごめんね、ともありがとう、とも言わずに。

『おかあさん、なにして』
『ああ、＿＿』

呼んだ名前は、彼のものじゃなかった。