団長、そろそろ通報していいですか？

31話 ページ33

目の前に広がった赤と、

苦しそうに倒れる人。



もう、こんな光景も見慣れてしまった。





あの後、私はオークションに出され、見ず知らずの男の人に買われた。

今は裏闘技場って所で賞金稼ぎをしている。







齢10歳にして、初めて人を殺した。



”殺らなきゃ殺られる”

私が来たのはそんな場所だったから。




そして、良くも悪くも命は容易く消えた。


最初は罪悪感や死ぬ直前の表情が頭にこべりついて三日三晩寝つけなかったがが、

慣れ、そして夜兎の血とは怖いものだ。



生死を賭けた戦闘は、自分の中に眠る夜兎の本能を呼び覚まし、恐怖や悲しみをかき消していく。



それから1週間も経てばなんとも思わなくなり、

あっという間にこの業界では最強と謳われるほどになった。






『いただきます』



レストランで出てくるような豪華なご飯に、いつも通りに手を付けた。

私を買ってくれた人は、頑張ればそれだけのご褒美をくれる。

まあ、その逆も然りな訳だが。


私にとっては分かりやすくて良いので、この生活はなかなか気に入ってる。









でも、この業界じゃ安定した生活なんて送れない。


｢新しいことをするから、裏闘技場からは足を洗うことにしたんだ。残念だけど、君とはお別れだね｣



ある日突然そう告げられあっけなく捨てられた。

理解はしていた。
ここはそういう所だと。

自分のような存在は道具でしかなくて、要らなくなったら捨ててしまう。


それでも、ここまで何の感情も無い関係なんだと思い知らされた。

不思議なことに涙も出ないし寂しくもなかったけど。



｢あの時｣の方が悲しかったから？

人に愛を求めなくなったから？

もしかしたら、とっくに私の心も人じゃなくなりつつあるのかもしれない。

感謝→←30話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す