第十話 ページ10
「A!」
気怠さを隠そうともせずにゆっくりと振り向くと、そこには少しだけ元気さを残して笑みを向けてくる久坂がいた。
そしておはようと挨拶が飛んでくる。
今までは朝に見かけても挨拶を交わすような間柄ではなかったのにどういう心境の変化だと固まっていると、顔に何かついているのかと聞かれて我に返る。
「いや、久坂から挨拶なんて珍しいなって」
「別に良いだろ。それより昨日の三人、見ない顔だったけど転校生かな」
「転校生って、この時期に?」
それはないだろと鼻で笑う。
そもそも不法侵入していた前科があるのだから今回もたまたま何かをしに来て偶然見つけただけという可能性の方が高い。
という結論から朝の私は茶髪に借りたブレザーを返せないままいちいち持っているのも嫌だったため家に見捨ててきた。
「じゃあ幽霊生徒?」
「幽霊部員みたいに言うな。――そのうちまた逢えんじゃな〜いの」
背中越しに言葉を飛ばしながら適当に久坂を流して教室へ足を進めた。
「今日は転校生を紹介します」
何時もの如く頬杖をつきながらボーッとしていた私の耳に何やら不穏な言葉が届く。
まさかと訝しげな表情で杉先生を見つめる。
嫌な予感に冷や汗をかきつつ、杉先生の入ってという言葉に促されて教室に入ってくる生徒をまじまじと見つめた。
「高杉です」
「吉田です」
「入江です」
「やっば・・・・・・」
――見ない顔だったけど転校生かな
それはないだろと一瞥した久坂の言葉が脳裏に過ぎり、唖然とした表情はそのまま心の声も外に漏らしてしまっていた。
何故か嫌な予感しかしない上に大抵人が考える時の嫌な予感というモノは当たることの方が多い。
そして何より、あの茶髪――高杉とかいう生徒は一人だけYシャツ姿でいる。
理由は簡単。
私が彼奴のブレザーを持っているからだ。
そしてソレは家に見捨ててきたため今は持っていない。
「じゃあ三人は後ろの方に適当に座って」
そう言われて此方へ歩いてくる三人。
あえて視線を逸らしながら飄々としたを浮かべ、頬杖をつき直す。
すると、茶髪だけが私の真横で足を止める。
流石にそこまできては無視できないと苦虫を噛み潰したような表情で茶髪を見上げ、苦笑した。
「ブレザーは」
「あははは・・・・・・――忘れました」
ひとしきり笑うだけ笑ってすぐさま反対方向に顔を逸らしながら忘れた事を端的に伝える。
そして聞こえてきた溜息に顰めた私の表情は今の私の感情そのものだった。
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nanase.(プロフ) - りょうこさん» こんにちは。この度は本作品をお読みいただき誠にありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからも頑張って執筆致しますのでよろしくお願い致します! (2020年6月19日 20時) (レス) id: 62dfa2fa96 (このIDを非表示/違反報告)
りょうこ - 好きな作品なので、いつも楽しみにしています!3人ともカッコイイので、続きが待ち遠しいです! (2020年6月19日 0時) (レス) id: ba306ee394 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nanase。 | 作成日時:2020年4月11日 1時