第六話 ページ6
考えたところで意味はない気持ちは晴れることなく明るかった空は茜色に染まり、六限目の授業もそろそろ終わりになる。
そして今、クラスに残って授業を受けているのは私と久坂と教師である杉先生だけ。
他の生徒は皆それぞれに散っていった。
頬杖をつきながら閑散とした教室を一通り見渡し、最期にはどこか寂しげな背中をしている久坂に視線を移す。
すると、
「先生・・・・・・」
「ん・・・・・・?」
所在なさげに見え隠れした寂しさと不安が入り混じった様な声音で杉先生を呼ぶ久坂。
けれど、黒板を消している先生はそれに振り向くこと無く至極端的に返事を返す。
そして黙ってしまった久坂の表情は見なくても想像に容易い。
名簿と教材を持ってじゃあと出ていく杉先生の後ろ姿へ何かを思い立った様に振り返る久坂だったが、もうこの教室には既に杉先生の姿は無かった。
見るからに肩を落とした久坂を一瞥し机の上で広げられていた教材を片付ける。
横に掛けられた鞄を持ち、立ち上がって久坂の前へ足を進めた。
すると、捨てられた子犬の様な目つきで私を見上げる久坂。
「帰ろ、久坂。オススメのパワースポット教えてあげるよ」
「何でだよ」
「ん?」
腕組をしながら久坂を励まそうとすれば、行き場のない感情で握り拳を作る久坂から静かに漏れた声。
ゆっくりと首を傾げて生返事を返す。
すると、勢いよく立ち上がり
「何で、Aは笑ってられるんだよ。嫌じゃないのか?――俺は嫌だ。変えるって約束したんだ」
――杉先生と
と、矢継ぎ早に言葉を紡いだ最期にはやはり悲しげな表情をする。
「久坂は信じるの?信じないの?」
「え?」
想像した応えと違ったのか、訝しげな顔で私の顔を見る。
ソレを目尻に私は言葉を続けた。
「中途半端な信頼はただの感情の押しつけだよ。信じてたのに裏切られたって思うんならそれは信頼じゃあない。どうなのよ」
ハッとした表情で悔しそうに拳を握る久坂。
そのまま私の問いには応えずに乱暴に鞄をひったくって出入り口へ向かう。
「もしそうなら後悔しないように、拗れないようにちゃんと自分の中でその気持ちと向き合わないとずっと辛いままだよ」
「Aに俺の気持ちは判らないだろ!」
「本人の気持ちなんて――誰にも正確に判るわけないでしょ」
私に対して珍しく聞く久坂の強めに出た声。
その声に乗せられた言葉に対して漏れた私の言葉は誰に拾われるでもなく静かに静寂へ紛れていった。
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nanase.(プロフ) - りょうこさん» こんにちは。この度は本作品をお読みいただき誠にありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからも頑張って執筆致しますのでよろしくお願い致します! (2020年6月19日 20時) (レス) id: 62dfa2fa96 (このIDを非表示/違反報告)
りょうこ - 好きな作品なので、いつも楽しみにしています!3人ともカッコイイので、続きが待ち遠しいです! (2020年6月19日 0時) (レス) id: ba306ee394 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nanase。 | 作成日時:2020年4月11日 1時