第十四話 ページ14
「あ”〜腹立つ!」
一人空を眺めつつ、昨日のあの珍事件に一人ブツブツと文句を呟く。
それと同時に拾われるはずのない漏れた言葉へ返答する呑気な声が隣から聞こえ、ゆっくりと怪訝な表情で隣を見た。
「でもさ、無事帰れて良かったよな」
「・・・・・・」
「え、何?」
すると、そこには寝そべる私の隣に体育座りをして辺りを見渡す久坂がいた。
驚きと疑問が混ざり合い、鋭い視線のまま久坂を凝視する。
「なんでここにいんの」
「え、Aっていつも此処で寝てから学校行くんだろ?俺も――」
その先の言葉は訊くまでもないと起き上がって校門の方へ歩き始める。
大体何故久坂が私の朝のルーティーンを知っているのか。
まぁ登校中に見かけるのだろうが、だからといって構われるのは好きじゃない。
「ちょ、待って!待ってってばA!」
「朝からついてこな――」
「俺昨日Aと別れてから学校に鞄持ちに行ったら丁度杉先生と教室で会って・・・・・・」
慌ただしく追掛けてくる久坂へついてくるなと振り返り様に発した言葉に被せて真剣な言葉が耳に届く。
「ちゃんと俺の気持ち伝えた。何も言葉はなかったけど、俺、一人でも頑張るから」
――絶対諦めたくない
悲しみを含んだその強気な瞳に固唾を飲んだ。
きっと久坂は本当に一人になっても諦めない。
そういう男だ。
静かに久坂の元へ足を進めて目の前に立つ。
「頑張ったじゃん。へたれ久坂のわりには」
そう言って微笑しながら肩を叩いた。
誰しも人に本心を伝える事は酷く怖いものだ。
それを久坂は乗り越えたのだ。
それがほんの少しだけ私にとっては嬉しかった。
「へたれって――」
「おはよう」
少し元気な表情に近づいた久坂。
久坂の言葉に被せるように後ろから聞こえてきたやたらに元気な挨拶と聞き覚えのある声に訝しげな顔をしながら視線を移す。
すると、そこには顔つきがスッキリした杉虎之助がいた。
判り易く嬉しそうな顔をする久坂の背中を押して行っておいでと声を掛けた。
大きな声で先生を呼びながら走って行く久坂の背を見て憂いにも似た微笑をしつつ校舎へ止めていた足を動かす。
「一人で頑張る・・・・・・ねぇ〜」
大抵一人で頑張るなんていう人間の終末は大凡自身のその大きな正義感に潰されて終わりだ。
頑張ると言い聞かせている時点で無理をしているのだから当然だろう。
「良かったね久坂」
見えない相手に呟いた言葉は静かに喧噪の中へ消えていった。
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nanase.(プロフ) - りょうこさん» こんにちは。この度は本作品をお読みいただき誠にありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!これからも頑張って執筆致しますのでよろしくお願い致します! (2020年6月19日 20時) (レス) id: 62dfa2fa96 (このIDを非表示/違反報告)
りょうこ - 好きな作品なので、いつも楽しみにしています!3人ともカッコイイので、続きが待ち遠しいです! (2020年6月19日 0時) (レス) id: ba306ee394 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nanase。 | 作成日時:2020年4月11日 1時