少女の告白【橙】２ ページ37
「…これ、全部持っちゃダメなの？ 持っちゃダメな欲望ってこと？」
「…いや、欲望そのものを持つことが罪なんやないよ。それに振り回されることで罪をおかしてしまう可能性がある言うだけやから」
「…ふうん」
「…せやけど、そんな感情持たないでおれたら、どんだけ楽なんやろなあ」
…先生が言ってることはよくわかんないけど、ノートもぴっちり埋まったし
なんだかまた一つ大人になったような気がするから、私は満足した。
神父様が来て、礼拝が終わる
お菓子をもらって、石を蹴りながら私はおうちへ帰る
…先生は、この帰り道の途中に住んでいて
私は昔よく、窓からこっそり部屋を覗いていた。
先生は、年中埃っぽいオレンジ色の毛糸のマフラーをしていて、とっても変だった
小鳥を飼っていて、鳥籠の中の小鳥に向かって、毎日話しかけていた
“お前はどこへも行かへんよな”
“ずっとここにおってな”
…ある時、その小鳥が、死んじゃったみたいで
両方の手のひらの中に、その死骸を包んで持って、
ひとりぼっちで泣いていた
…よく、わかんないけどなんだか、
胸が、ぎゅーっ、となって
見ちゃだめなものを見たような気がして
私はその日から、覗くのをやめた。
…変な先生
いっつも寂しそうで
笑ってるのに、笑ってないみたい
いつか大人になって、この島を出たら、
私も先生の気持ちがわかるのかな？
「ーー…」
…その時、知らない男の人とすれ違った
真っ黒に日焼けした島の人たちとは、全然違って、
透き通ったみたいに真っ白で綺麗な男の人で
私はなんだか、どきどきした
「…お嬢ちゃん」
「……」
「この辺に、最近移住してきた男住んどらんかった？」
…その人は、先生と似た話し方をしていた
私は、元きた道を指差す。
「…あっち？」
「うん。あの白い家」
「そうか。ありがとうな」
「ーー…待って」
思わず声をかけると、その人は振り返った。
やっぱり、私はなんだかどきどきしていた。
「…何しにきたの？」
「ん…？ 預かった手紙、届けにきたんや」
その人はちょっぴり恥ずかしそうに笑ってそう言った。
…先生に、
会いにきた人がいる
手紙を書いた人がいる。
…なんだかそれが嬉しくて
私は、帰りの坂道を、思いっ切りダッシュした。
(陰翳の果実／完)
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しいたけ(プロフ) - 完結おめでとうございます。本当に大好きな作品です。どんな終わりを迎えるのか、終わることの恐さもありましたが、穏やかで温かな気持ちで読み終えまして、この作品に出会えた幸せを噛み締めました。ありがとうございます。お疲れ様でした！ (2020年10月12日 19時) (
レス) id: 6cdb312904 (このIDを非表示/違反報告)
みほ(プロフ) - 完結おめでとうございます！ずっと最終話を楽しみにしていました！たまごさんの文学のように作り込まれた世界観や表現が大好きです（ ; ; ）また1話から読み直そうと思います。お疲れ様でした！ (2020年9月24日 10時) (レス) id: 31e8afe04b (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 完結おめでとうございます！これほどまでに壮大なスケールの夢小説に出会ったのは初めてでした。いくつもの糸が絡み合ったストーリー、どうやってエンディングを迎えるのか、ずっとドキドキしながら読んでました。今はしばらく余韻に浸っていたい気分です。 (2020年9月24日 1時) (レス) id: 64389dcac8 (このIDを非表示/違反報告)
やなこ。(プロフ) - 完結おめでとうございます！ (2020年9月23日 16時) (レス) id: 779424fc05 (このIDを非表示/違反報告)
みんと(プロフ) - たまごさん完結おめでとうございます。嬉しい反面読み進めるワクワクが無くなる寂しさも感じています。何度も何度も読み返したくなる大作だと思いました。これからもたまごさんの書く作品に期待しています。本当にお疲れ様でした。 (2020年9月23日 1時) (レス) id: f635eadff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年6月4日 1時
