黄の告白21 ページ43
「…ふうん、やっと尻尾出しましたね」
…やっと
やっとやった。
…冷え切った階段
今2月やぞ
俺は自分の執念に自分で笑いそうになる。
「医者のセンセが放火騒ぎなんて、病院バレたらまずいんやないすか?」
振り返ったまま立ち尽くすそいつに向かって、さっき撮った映像の入ったスマホを見せつけるように左右に振った。
「あー、初めまして。言うても他人な気がせえへんすけど」
「……」
「嫌やな、なんか言うてくださいよ。こんままやと風邪ひいてまいそうっす」
「…誰や」
サンダル履きに部屋着の上に羽織ったダウン
生活感溢れるただのおっさんやん
…左右の手のチャッカマンと新聞紙の不似合いさがえらい滑稽で、俺は無言で笑う。
「…錦戸か」
「うわ、なんでわかったんすか、こわ」
「Aから聞いた話で当てはまりそうな奴は一人しかおらんからな」
…そう言ってそいつは開き直ったように、身体の正面をこちらへ向けた。
距離は3m、微かに反響する声…
コンクリートで覆われた冷え切った空間で俺たちは静かに睨み合う。
「フラれた女をいつまでもつけ回すストーカーの心理っちゅうのもなかなか興味深いもんがあるな」
…かつて彼女を取り巻いたどの男よりもタチが悪いことを本能で感じ
俺もゆらりと身体を起こした。
「…いつからや?」
「…最近っすよ」
コートのポケットに手ぇ突っ込んだまま、一段、もう一段と暗い階段を降りる。
…ここまでするようになったんは最近やった。
ここはマンションやから監視カメラ設置するんも容易やないし、
ただ、丸山と別れてぼろぼろんなった彼女が、こいつと出会い、付き合い始めるのを俺はずっと見とった。
新しい生活を送る彼女はみるみる健やかに生まれ変わっていくようやった。
頬に赤味が挿し、仕事を始めて、笑いながらこいつと並んで道を歩く。
あの日ーー…
彼女を拉致して、彼女に全てを暴かれた日以来
俺は二度と彼女の前に現れるつもりなんてなかったし
誰のこともけしかけんと、ただ黙って遠くから彼女の姿を見ているだけやった
“フラれた女をいつまでもつけ回すストーカーの心理”
…言うても笑われるだけやろそんなん
彼女が真っ当な幸せを掴む姿さえ見届けたらーー…
俺はそん時初めて、自分の人生を生きようと思った
生きられると思った
やのに
最後の悪魔が、今 目の前で笑っていたーー…
747人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たまご(プロフ) - okmrernさん» あ、なんか途中で送信しちゃったごめんなさい…!引き続きよろしくお願いします! (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - okmrernさん» okmrernさま、お久しぶりですありがとうございます!ここまでされても私はこの村上信五とつきあいたい (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさま、お久しぶりですありがとうございます!ラスボスは一番そばにいるということでひとつ…! (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぐふ。さん» ぐふ。さま、初めてのコメントうれしいですー!!信五最強説です…!そしてビリヤード!素敵ですねそれ…ただ友達がいる設定にしてしまったなあの店員さん…… (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ゆき姉さん» ゆきえさん!コメントありがとうございます嬉しい!ほんとしんどい話でごめんなさいね…いつもありがとうございます! (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:たまご | 作成日時:2019年8月18日 23時