国境を越える旅【橙】9 ページ9
“We will be landing at Haneda Airport in about 20minutes.”
到着のアナウンスが流れた。
右隣の白人男性は今鑑賞中の映画を時間内に観終えることができるかが気がかりなようで、アナウンス中 止まったままのモニターをじれったそうに 見つめていた。
……
あのあと。
どのくらい、ああしていたのか…
名残を惜しみながらそっと抜き、身支度を整えてから、なんだか申し訳なくなって。
私は、満たされたけれど、きっと彼は不完全燃焼だろうと…
「…くちで、しますか…?」
そう尋ねたら、
「ん、ええよ、僕だけなんて悪いもん」
遠慮するから、じゃあ、と小さく挨拶をして静かに自分の席に戻ろうとすると。
彼が私の手を引き、耳元で囁いた。
「…ほんまはやっぱ、旅なんてしても僕は僕やなて、また思っとったんやけど」
「…たまには、してみるもんやね」
…ああこれは、旅の想い出
束の間の非日常
一期一会、郷に入っては郷に従え、旅の恥はかき捨て、いろんな言葉が頭を回る、最初からわかっていたことだけれど。
もうすぐ、羽田に到着する、先に降りることになる彼は速やかにイミグレを通過し優先的に運ばれてくるバッゲージをピックアップし、さらりと税関を抜けてタクシーに乗り込むんだろう。
大きな振動、着陸のアナウンス
シートベルトサインが消えた瞬間 気の早い乗客は早々に立ち上がり、頭上の荷物を降ろすけれど。
私たちは待たされ、こうしている間にも颯爽と歩いていく彼の姿が頭に浮かんだ。
……
急いだら、負けな気がして
ゆっくりと動く歩道を歩き、ベルトコンベアーの前、トランクが出てくるのをじっと待つ。
姿を、探したらみじめになる気がして
ただじっと、流れてくるトランクの行列を見守る。
…すると。
とん、と何かが触れた気がした
目をやると、私のそばを通り過ぎた彼の、トランクを引き歩いていく後ろ姿がーー…
ポケットに違和感、手を入れると
税関申告書……?
“言い忘れましたが、舞台再演決まったみたいなんで近々連絡いくと思います”
“僕はそない悪い男やないのでご安心を”
名前と住所欄に無理矢理、詰め込まれるように書かれた小さな文字ーー…
慌てて目をやると。
税関を抜けた彼の後頭部が
日常へと続くドアの中へ、消えていったーー…
933人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たまご(プロフ) - くりくりさん» くりくり様、お返事遅くなってごめんなさい!コメントありがとうございました!ラスト駆け足になってしまいましたが、少しでも気に入っていただけたなら幸せです。今後ともよろしくお願いします! (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - まっきーさん» まっきー様、いつもありがとうございます!緑さんのお話、書いた当初は自信なかったんですが、今では結構好きなお話です。7人揃う日まで気長にお付き合い頂けると嬉しいです…! (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
くりくり(プロフ) - 初恋ごっこ、読み終えて胸が苦しくて愛おしい気持ちが溢れて一言お伝えせずにいられなくなりました。更新が待ち遠しいです! (2019年8月25日 15時) (レス) id: f2b0afbb33 (このIDを非表示/違反報告)
まっきー(プロフ) - どのお話も素敵でした!とくに大倉君のお話が堪らなく好きです(*´∇`*)最高です!!お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています!! (2019年8月15日 20時) (レス) id: 76f56a80a0 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ひよりんさん» ひよりんさん!コメントありがとうございます、まさかひよりんさんに読んでいただける&コメントまでいただけるとは思わず二度見しました…!うれしいですありがとうございます、今後とも何卒よろしくお願いします…。゚(゚´ω`゚)゚。 (2019年8月15日 16時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:たまご | 作成日時:2018年4月30日 14時