俺の物語【黒】 ページ25
…俺がAと出会ったんは、まだ俺が二十歳になる前の頃やった。
「お疲れ様でしたー」
「ああ、お疲れ」
…そん頃の俺はなんとか呼んでもらった東京の番組に一人で出とって
“関西から来た面白い兄ちゃん”
型にはめられた役回りを必死にこなすも
全くない手応え、空回りする自分、
…誰も俺のことなんてほんまには見てへんし。
「…なんっで下っ端の癖にタメ口やねん」
焦って、苛立ってすべてを他人のせいにばかりして
去ったスタッフのその背中に思わず、そう吐き捨てた時。
「…年下の癖に“下っ端の癖に”って言うところが透けて見えるからじゃない？」
「あ…？』
クロークの廊下で、近くに立っていた女がそう呟いた。
…彼女はそのバラエティー番組のアシスタントをしていて
まあ単に若い女がMCの横で花添えるだけの役回りで
…その、不躾な、タートルネックにジーンズ姿の化粧っけのない女が
さっきまでえらい短いスカート履いてけらけら笑っとった子と同一人物やとは一瞬気づかず
睨みつけた俺に、彼女は吹き出すようにして笑った。
「…嘘嘘。ごめんなさい。いろんなエピソード用意してるのに、全くカンペ出さないもんね、あのディレクターさん」
「…なんで」
「…楽屋、隣だから。大きい声で話す練習してるのいつも聴こえてる」
「え…」
「私着替えながらいつも笑っちゃうもん、面白くて…あ、変な意味じゃないよ」
「ーー…」
「…ごめんなさい余計なこと言って。でも、一生懸命でいいなって思ってた」
…そん時のAは
今思えば、俺の３つ上やから、彼女やってまだ子どもで
やけど、俺のすべてを見透かしとるみたいに、ずいぶん大人の女に見えた。
「最近ムカついた話…なんかある？ Aちゃん」
「私はなんもないですよ〜、横山くん、何かありません〜？」
…それ以来
本番中、Aはいつも頭空っぽな女のふりをしとるから
わざと語尾伸ばして、ろくな話持ってへん顔をしながら
MCの自分への振りを、不自然やない程度にかわしながら俺に振ってくれることがたまにあって
俺はそのパスを受け取り、なんとかゴールを決めるのに、いつも必死やった。
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ゆき姉(プロフ) - 年末年始と忙しくて気になっていたけど我慢してやっと、読めました！あここで名前が？って予想外だったので戸惑った笑ほんまのほんま、の感想は完結した時に。でもでもだけど。やっぱりたまごさんのかくeightが好きです。 (2021年1月7日 18時) (
レス) id: f0721a3442 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - はるさん» はるさん、コメントありがとうございます、とても嬉しいです。ちょうど「CHANCE」が出たころっぽかったのでそのイメージでしたが、マドモアゼルココもいいですね！引き続き見守っていただけると嬉しいです。 (2020年12月17日 3時) (レス) id: 0669d21b3c (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 鳥肉なし、愛がたっぷりのオムライスがリアルっぽくて切な愛おしいです。シャネルの香水はマドモアゼルココが大好きなので、それをイメージしました。 (2020年12月15日 11時) (レス) id: c38ac67a9b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - kukuさん» kukuさんコメントありがとうございます、嬉しいです！ほんと励まされます…！どうか引き続き楽しんでいただけますように！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぽてとさん» お返事ありがとうございました！ようやくご自身のお名前出てきたと思うので、どうか引き続きお楽しみいただけますように…！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年12月4日 16時
