告白１【黒】 ページ35
「…侯隆」
「ん…？」
「ちょっと…話があるの」
…その頃の俺は、東京での仕事も増えてきとって、
またAの家に泊まる日が多くなっていた。
彼女の家は何年経っても時が止まったみたいにそのままで
俺がタバコの火で焦がしたカーテンも、
二人寝たらぎゅうぎゅうのシングルベッドも変わらずそこにあり
“うわ、このマグカップ欠けとるやん”
“…それ最初に二人で買ったやつだからさ、覚えてないでしょ”
“あー、そういや張り切って無印で買うたなあ！”
俺がいつ帰ってきても寂しい想いをせんように、
この場所を、守り続けてくれとったんやと思う。
…やけど、前みたいにその日一日あったどうでもええことを報告しあったりだとか
俺が最近どんなことに憤り
彼女が最近どんなことで心を震わせたのかを、交わす時間はどんどん減っていた。
俺の頭ん中は、“彼女に話してもしゃあない”ひどく事務的な懸案事項でいっぱいやったし
彼女は彼女で、その領域に踏み込まんように遠慮してくれてたんやと思う。
その日も番組の収録かなんかが夜遅くに終わって、
深夜に、Aん家のコタツで彼女が皿洗う音聴きながら、寝転んでアンケートを書いていた。
「なん…あ、大学受けるいう話？」
「……」
…その頃には、Aのお母さんはもう亡くなっとって。
俺は葬式ん日、大阪におって参列すらできひんかった。
残酷やけど、弟さんも大学出て就職決まった言うてたから
Aの肩の荷も下りて、ようやく自分の道を歩み始められるんやなと思った。
「俺はええと思うよ、なんやっけ…高卒認定試験？ も受かったんやろ？」
「……」
「…俺も前よりは金あるし、ちょっとくらいなら助けられるんちゃうかな」
…そんなことを。
コタツからずるずる這い出した俺は、わかったように言うて。
ちょっと痩せたように見えるAは、その頃には髪を暗くしていて、
まだチャラチャラしとる俺よりもずっと、大人っぽかった。
「ーー…」
「…どないしたん」
…よう見ると、俺のそばに座った彼女の肩は、小刻みに震えとった。
台所側の明かりしか付けとらんかったから、俯いた彼女の顔は逆光になっていた。
「A…？」
…俺は急に不安になって、彼女に声をかける…
「…私」
…俯いたまま
ようやく口を開いた彼女は
「うん…」
「…妊娠、したかもしれない」
「ーー…」
ーー…
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 511人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆき姉(プロフ) - 年末年始と忙しくて気になっていたけど我慢してやっと、読めました！あここで名前が？って予想外だったので戸惑った笑ほんまのほんま、の感想は完結した時に。でもでもだけど。やっぱりたまごさんのかくeightが好きです。 (2021年1月7日 18時) (
レス) id: f0721a3442 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - はるさん» はるさん、コメントありがとうございます、とても嬉しいです。ちょうど「CHANCE」が出たころっぽかったのでそのイメージでしたが、マドモアゼルココもいいですね！引き続き見守っていただけると嬉しいです。 (2020年12月17日 3時) (レス) id: 0669d21b3c (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 鳥肉なし、愛がたっぷりのオムライスがリアルっぽくて切な愛おしいです。シャネルの香水はマドモアゼルココが大好きなので、それをイメージしました。 (2020年12月15日 11時) (レス) id: c38ac67a9b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - kukuさん» kukuさんコメントありがとうございます、嬉しいです！ほんと励まされます…！どうか引き続き楽しんでいただけますように！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぽてとさん» お返事ありがとうございました！ようやくご自身のお名前出てきたと思うので、どうか引き続きお楽しみいただけますように…！ (2020年12月7日 22時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たまご
| 作成日時：2020年12月4日 16時
