俺を拾った人は、どうやら配信者らしい【桃】

8.さーて次回の就職先は ページ10

貴方.side



書類の束と薄いノートPCを両手に抱え込んだ彼が、
扉へと足を進めた後に、お茶をコップに注ごうとする此方に向かって少し振り返った。


「あのさ、さっき言った事の内容は
　出来れば内密に...」

「ちょっと難しいかな」

「デスヨネー」


どうやら先程の話の内容を口外しない様にやんわりと静止しようと試みたらしいが
俺はそんな切実な願いと意見を一蹴して、彼の呆れ顔諦め顔半々な表情を嘲笑う様にして新たに口を開く。


「俺、何時情報をネットに流しちゃうか分かんないよ...
　出会って数日の奴をそう易々と信じない方が良い」

「それが、お前を数日も泊まらせてやった奴への脅しか」


今まで大体無表情で貫き通してきた彼の、やっと崩れた表情を眺め
「かもね」と下を向いてからオニ―サンの元へと辿々しい足取りで一歩を踏み出した。

数秒後には、彼の片手を自分の両手で出来るだけ優しく包み込んで互いに顔を見詰め合う。


「だから、さ...口を緩くして欲しく無かったら
　また暫く此の儘俺を此処に泊めて、養って」

「お前どんだけ働きたくねー訳!?
　はぁ...俺だけかよ、真面に就職してもらいたかったの」


大きく溜め息を吐いてるさっくんには悪いけど、俺は素直に頷いて
少し背の高い彼の顔を確認する様に覗き、余計なお喋りが止まらない口の成すが儘に言葉を紡いだ。


「うん、だからね取り敢えず今は
　...さっくんに永久就職させて貰うね」

「ん!?」


驚きに捕らわれた彼は其の儘に、意地悪な笑みを溢して即座に手を離す。

『可哀想なオニ―サン』、こんな俺に気に入られちゃって
と少し自分の思考と行動を悲観視するが、最早今はどうでも良くなってしまった。


「実を言うと俺、家族の一人に不定期で多額の金が振り込まれる予定でさ
　其れ迄、数日くらい此処でちょっとだけ居座らせて貰おうと思ってたんだけど

　さっくん面白いし、こんな事態になって、こんなに優良物件なら手放す理由は無いよねェ」

「ちょ、待っ」


相手に咄嗟に言葉を出す余裕も与えず、自身の両手を背中の後ろ辺りで組ませ
穏やかな笑顔を表情に貼り付けて途中だった言葉を繋げて、彼に向かって告げる。


「ちゃんと俺をお世話してくれないと、間違って住所とか流しちゃうカモ」

「...最悪だ、お前」


最悪で結構、君の隣に居る為だったら多分きっと他の手段を使う事さえも俺は厭わないと思うよ
手に持った全ての書類やらを再度、床にぶちまけた彼には伝わらないと思うけど。

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