俺を拾った人は、どうやら配信者らしい【桃】

7.ドライヤーくらいは自分で ページ9

貴方.side



数分後、その場で正座に座りなおす俺の姿を眺めて
彼は大きく溜め息を零した。


「話を聴く姿勢なのは良いよ、最高だよ
　でもさ、何で脱衣場からドライヤー持って来ちゃったかな」

「髪乾かしたいのと、自衛用」


「自衛用！？」と彼が驚きの感情を見せる余り、
漸く集めて整頓し終わった書類がまたもや辺り一帯に散らばる。


俺の掌に包まれた黒い物体に集中する視線

カチッとボタンを一回押して熱風が出るその光景に見慣れている筈なのに、
彼は愕然と俺とドライヤーを交互に見詰めた。


「ほら、名前を聞いたら死ぬ系と一緒で
　情報を聞いたら即死するのかと思って、耳栓用に持って来た」


半ば悟りを開いた瞳で淡々と言葉を繋いでいけば
頭を抱え始めたさっくんが、俺の手からドライヤーを取り上げる。


「え、やってくれるの？
　助かるわ〜、俺髪乾かすの苦手でさ」

「違うわ、この能天気馬鹿」


結局、没収されたドライヤーは俺の手に戻って来ず
再度痛々しく赤色に染まった額を押さえて、俺は彼の説明もどきを聞く事にした。


「配信者とか、歌い手やゲーム実況者って分かるか？」

「少し耳にした事は」


「なら話は早い」と小さく呟いて話を進める彼
その表情は、なんとも言えない様な微妙な面持ち。

俺もゴクリと唾液を喉奥へと押しやった


「俺はそう言う色んなコンテンツを詰め込んだエンタメユニット、
　『すとぷり』のメンバーの『さとみ』」

「さっくん、もしかして凄い人なんか」

「もしかしてじゃなくて、普通にすげーよ」


彼はそう自慢げに含羞んで、
先程落としてしまった書類の一枚を手に取る。

裏面からでも分かる様なクシャクシャ具合の紙
覚束無い足取りで俺の前に来ては、その書類を眼前に突き付けた。


「これは、さっきお前が間違って見た書類。
　リビングに行くかと思って別室で作業してたのに...」

「マジで反省しております...
　ってこれライブレッスンの日程表？」


コクリと頷いた彼、反対に俺は首を少し傾げ
新たに出来た疑問を素直にぶつけてみる。


「なんでアイドルでもないのにライブ?
　ネットで活動してるんなら顔割れしない方が良いじゃん」


そんな純粋で馬鹿な質問に彼は、『さとみ君』は特に考える事無く数秒で口を開いた。


「だって、リスナーが楽しんでくれる事なら
　大体はなんでもやりたいっしょ」


その笑顔に穢れ等一切感じられず
俺は再び首を傾げて口元を隠し、別の疑問を脳裏に浮かべていた。

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